りぼんの読書ノート

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十二国記 9.白銀の墟 玄の月(2)小野不由美

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大逆を犯して王の座を奪い取った阿選と会った泰麒は、危害こそ与えられなかったものの体のいい軟禁状態に置かれます。もとよりそんなことは覚悟の内ですが、不思議なのは仮王として権力を掌握したはずの阿選が、ほとんど全ての政務を小物の内宰に委ねたままで全く政治を行う気配がないことでした。しかも荒れ果てたままの王宮内には、まるで廃人のように生気を失った人物が溢れているのです。そこにはかつて天の声を聴く天官長でありながら、今では阿選に仕えている琅燦の意図が働いているのでしょうか。彼女もまた簒奪者の一味なのでしょうか。

 

その一方で、李斎らによる驍宗捜索は進んでいません。姿を隠していた兵たちや、驍宗の復活を願う同志たちは少しずつ集結してきますが、勢力と呼ぶのもおこがましいレベル。しかし彼女たちはその過程で、政が行われていないために困窮する民の姿をつぶさに知るのです。荒廃した厳寒の地では、驍宗を慕い続ける民も、阿選に期待する民も、村を捨てて流民や浮民となった者も、民に寄り添う道士たちも、民を襲う土匪といえども、皆等しく貧しいのです。やはり最後は民衆蜂起しかないのでしょうか。しかし仮王・阿選が掌握する王師と対峙するには、人数も、装備も、訓練も圧倒的に不足しており、蜂起しても一蹴されることは目に見えています。

 

そんな中、王宮内で味方を増やしつつあった泰麒は、阿選に禅譲を提案します。この世界で天命によって選ばれた王が変わるには、天に見限られて位を奪われるか、生命を失うかしかありません。泰麒の提案は、驍宗に自ら禅譲させて位を降りた後に速やかに命を終えさせることなのですが、そのためには驍宗が姿を現す必要があるというのです。これは泰麒の深謀なのでしょうか。それとも彼は新しい天命を聴いたというのでしょうか。絶対的に無垢で慈悲深い存在であり、嘘をつくことができない麒麟の提案は、あまりにも謎めいています。まだまだ物語の先は見えてきません。

 

2021/5