りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/3 古事記 日本文学全集1(池澤夏樹編)

池澤夏樹さんの翻訳による『古事記』を読みました。まともに読んだのは初めてでしたが、冒頭からヤマトタケルまでの物語は結構覚えていました。それ以降は断片的です。「神話教育」に関わる問題があることは理解しているつもりですが、「怪しい日本神話」を…

デジタルの秘法(キャサリン・ネヴィル)

著者を有名にした『8(エイト)』も、その後の『マジック・サークル』も古代の秘法を探り出す物語ですが、処女作である本書は「現代の金融ミステリ」です。 若くして銀行の女性幹部社員となったヴェリティでしたが、セキュリティ改善策を提案したところ、暗…

伯林蝋人形館(皆川博子)

1920年代のベルリン。敗戦、皇帝退位、革命と内戦、列強による蹂躙、インフレと混乱、一時的な繁栄、不況到来とナチス台頭という狂乱の時代を舞台にして、6人の男女が織り成す甘美にして残酷な物語。 貴族の血をひき軍人の道を歩むはずが、ジゴロとなっ…

料理人(ハリー・クレッシング)

平和な田舎町コブは、ともにコブ氏の子孫であったヒル家とヴァイル家によって分割所有されていました。もともとコブ氏の居城であったプロミネンス城は、両家が再びひとつになるまでは住んではならないとされていたのですが、ようやく両家に結婚の話が持ち上…

復讐のトレイル(C.J.ボックス)

心優しいワイオミングの猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とする「狩猟ミステリ」も第8巻になりました。このシリーズを読むと、イエローストーンを再訪したくなって仕方ありません。 上司のランディ・ポープから嫌われて猟区管理官の職を失い、変り者の…

天冥の標7.新世界ハーブC(小川一水)

前巻の『宿怨』から直接続く巻です。長年の隔離と差別に対する怨みから、冥王斑原種を太陽系全域に撒いた「救世軍」によって、人類社会は絶滅に瀕していました。 小惑星セレスに墜落した恒星船ジニ号から、かろうじて生き残ったアイネイアとミゲラは、シティ…

鈍行列車のアジア旅(下川裕治)

バックパッカースタイルでの旅を書き続けている著者が、アジア各国の各駅停車での旅を綴った「鈍行列車紀行」です。 というと、のんびり感が漂う牧歌的な旅を連想してしまいますが、実態は決してそんなものではありません。硬い座席に長時間座り、不便な乗り…

道を視る少年(オースン・スコット・カード)

『エンダー・シリーズ』の著者による新シリーズです。 彗星の月衝突により滅亡の危機に瀕した地球が、生き残りをかけて送り出した恒星間移民船は、実験的なジャンプを行った際に奇妙な出来事に遭遇します。宇宙空間のみならず、時間も超えて過去へと向かって…

凍(沢木耕太郎)

著者のことはおぼりげに、『深夜特急』の作者としてしか認識していなかったのですが、本格的なノンフィクション・ライターであることを本書によって知りました。 本書は、ともにアルペン・スタイルのクライマーである山野井泰史と妙子夫妻を主人公とした、山…

王朝まやかし草紙(諸田玲子)

時は平安。壬生帝の御世ながら、政の実権は藤原北家の堀川派と東三条派が握っています。もちろん両家はそれぞれ自分の娘を入内させており、誰が次の天皇となるのか、陰湿な争いが行われています。 そんな中、東宮と契った女は物怪にとりつかれるという噂が流…

悪魔メムノック(アン・ライス)

トム・クルーズとブラッド・ピット主演の「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の原作となった『夜明けのヴァンパイア』に始まる「ヴァンパイア・クロニクルズ」の第5巻です。 なんと本書はヴァンパイア・レスタトを主人公とする『地獄篇』でした。レスタ…

冬を待つ城(安部竜太郎)

1590年。小田原攻めで北条氏を滅亡させた秀吉は、天下統一の総仕上げとして奥州諸藩の大名を再配置する「奥州仕置」を実行。しかしこれを不満とする九戸政実は、翌年、秀吉に臣従する南部信直を攻めたてます。もともと両者は、先代・春政の死後に南部家…

第一夫人同盟(オリヴィア・ゴールドスミス)

1960年代に仲良し4人組だった、アニー、シンシア、エリース、ブレンダの共通点は、成功した結婚相手から捨てられそうになっていること。しかも男たちは平然と、若い女性と再婚直前。それぞれ泣き寝入り状態だったのですが、「シンシアが自殺した」との…

パーフェクト・スパイ(ジョン・ル・カレ)

ウィーンの英国大使館に勤務する上級情報部員マグナス・ピムが、父親の葬儀で休暇を取って以降、失踪してしまいます。事態を憂慮してあわてふためく上層部を後目にかけて、英国の田舎町に潜んだピムは、一人息子のトムにあてて回想録を書き記していたのです…

先生のお庭番(朝井まかて)

「お庭番」といっても「忍びの者」ではありません。長崎時代のシーボルトに仕えて「薬草園の園丁=お庭番」を勤めた若い庭師・熊吉の異文化交流体験物語。 働き始めた当初は15歳にすぎなかった熊吉は、シーボルトに命じられるままに工夫を凝らし、シーボル…

マダム・マロリーと魔法のスパイス(リチャード・C.モレイス)

ムンバイを飛び出した後、フランス山間の小さな町リュミエールに落ち着いたインド人一家。次男のハッサンをシェフにしてインド料理レストランを開いたのですが、通りの向こうには、傲慢なマダム・マロリーがオーナーシェフを務め、ミシュランの2つ星を誇る…

武蔵3(花村萬月)

秀吉死す。世情が風雲急を告げる中で、17歳となった弁之助は、友人・然茂ノ介とともに武者修行の旅に出ます。吉川英治版の無能な又八とは異なり、然茂ノ介は生来の手首の柔軟さを生かして、手裏剣術の達人になっています。美男子でもあり、山落集団の娘と…

武蔵2(花村萬月)

年長の友人・然茂ノ介と共に、山賊退治に向かった弁之助でしたが、彼らは「里人とは別のルールで生きる山の民(山落)」でした。弁之助らは、義父の武二とも知り合いという山落の仲間のようになってしまいます。鍛冶や猟を生業とする山落たちはいずれも凄腕…

武蔵1(花村萬月)

武蔵の後半生は、著作『五輪の書』とともに知られており、それらを全てフィクション扱いしない限り、「禁欲的な求道者」との人物像が浮かんできます。その境地に至るまでの人生を、どのように描くのかが、小説家の腕の見せ所なのでしょう。吉川英治は、かな…

シップブレイカー(パオロ・バチガルピ)

『ねじまき少女』で独自のダークな未来図を描いた著者による「ヤングアダルト」なんて、ほとんど形容矛盾。とても心配だったのですが、大丈夫でした。悲惨な現実と未来への希望を同居させるという、離れ業が演じられています。 独自の世界観は健在です。資源…

プランク・ダイヴ(グレッグ・イーガン)

「ハードSF」を代表する著者の、5冊目の短編集です。「長編作家」の印象が強いのですが、短編でも「著者らしさ」をうかがうことはできます。ただし本書は、以前読んだ短編集『TAP 』とは、かなり雰囲気が異なっているようです。 「クリスタルの夜」 ド…

私にふさわしいホテル(柚木麻子)

元アイドルと新人賞を同時受賞して無視される。元アイドルを売り出すために単行本出版を阻止される。有名作家と大喧嘩してペンネーム変更を余儀なくされる。編集者に裏切られる。同姓の実力派新人の登場ですっかり霞む。やっとの思いで候補になった文学賞の…

耶律徳光と述律(仁木英之)

唐の滅亡(907年)から宋の建国(960年)までの間、中原・華北の支配者が目まぐるしく変わった「五代」は、中国の戦国時代のようなもの。どの王朝も10年程度しかもたず、1代か2代で滅亡しています。しかし、その後200年に渡って漢民族を苦しめ…

古事記 日本文学全集1(池澤夏樹編)

池澤夏樹さんの個人編集による「日本文学全集」の第1巻は、自身の翻訳による『古事記』です。「もとの混乱した感じをどこまで残すか、その上でどうやって読みやすい今の日本語に移すか、翻訳は楽しい苦労だった」と語っていますが、その試みは成功したので…

本をめぐる物語 栞は夢をみる(大島真寿美ほか)

「本」をテーマにしたアンソロジーです。時には、こういう本で素晴らしさを知る作家もいるのですが・・。 大島真寿美「一冊の本」 父の葬儀で喪主を務めた洋子が語った、父親の生涯は、全くの嘘でした。私設図書刊長であった父が遺した遺言を実行したにすぎ…

小さな黒い箱(フィリップ・K.ディック)

ハヤカワ文庫から出版されている「ディック短編傑作選」の第5巻です。1963-66年に発表された作品が11編収録されています。 「小さな黒い箱」 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』とともに、映画「ブレードランナー」の原作とされる作品です。教…