そんな中、東宮と契った女は物怪にとりつかれるという噂が流れます。東宮への輿入れが内定している東三条家の温子姫の父親・重盛は、真相を探り出すために温子姫の女房・弥生を起用。ところがこの弥生こそ、母親・近江の死の真相を調べるために、東三条家に勤めを得た女性だったのです。しかも弥生の関わる相手が次々と何者かに襲われる事件が続き・・。
本書は、主人公の弥生が、都の外れの陋屋で暮らす音羽丸や白楽天翁の力を借りて、東宮の周辺で起こる奇妙な事件と、過去の母の死とのリンクを探り出す「平安ミステリ」なのですが、それだけではありません。平安王朝の雰囲気や、貴族社会と庶民の対比、京と地方の対立までも描き出すのですから、かなり野心的。
肝心のミステリ部分も、解説者が安吾の『不連続殺人事件』と比較するなど、なかなかのもの。近江帝や藤原貴族たちは皆、架空の人物ですが、名前もエピソードも「それっぽく」仕上がっている、完成度の高い作品です。序盤で、女房たちが男どもを評する「雨夜の品定め」逆バージョンは、結構ツボにきました。
2015/3