りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

小さな黒い箱(フィリップ・K.ディック)

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ハヤカワ文庫から出版されている「ディック短編傑作選」の第5巻です。1963-66年に発表された作品が11編収録されています。

「小さな黒い箱」
アンドロイドは電気羊の夢を見るか』とともに、映画「ブレードランナー」の原作とされる作品です。教祖と信者を共感させる「箱」とは、人工的にテレパスを可能とする機会のようです。政府機関は、教徒をあぶりだすために罠を仕掛けるのですが・・。解説に、「宗教とは究極的な政治体制なのか。箱とはガジェットになった教会なのか」とありましたが、ディックの描く未来図は妙に中世的なところがあります。

「輪廻の車」
アジア諸国との戦争に敗れて、白人種が最下層カーストとされている世界。デトロイトで発生した、テクノロジーを信奉する白人の秘密結社は世界を変えることができるのでしょうか。この世界で「次の輪廻」が予測できるようになっている点が異様です。

「ラウタヴァーラ事件」
プラズマ体の宇宙人に救助されて死後再生された女性宇宙飛行士の脳が、「死後の世界」を映し出すようになります。しかし、彼女が幸福感を覚えた「神との出会い体験」は変質してしまいます。異なる種族の異なる神学の接ぎ木が、悲劇を生んだようです。

「待機員」
コンピュータ大統領の代役として待機するだけの一生をおくるはずだったマックス・フィッシャーが、マシントラブルの結果、本物の大統領になってしまいます。やがてコンピュータが回復した時に、マックスの取った行動とは? コンピュータ故障の原因となった、外宇宙艦隊の攻撃は放置されてしまうんですね。ディックらしいです。

「ラグランド・パークをどうする?」
マックス・フィッシャーが大統領として再登場。突然現れた不思議なフォークシンガーの能力は、予知ではなく、口にしたことを実現させることでした。彼がうっかり世界を破滅させないようにするのは大変です。

「水蜘蛛計画」
「すべてのSF作家は、未来を予測するプレコグだった」というプロットで、実在のSF作家の実在のSF作品を紹介する楽屋落ちコメディです。この作品でも、問題の契機となった「惑星プロキシマへの遠征隊が質量を失った問題」は放置されてしまいます。

「時間飛行士へのささやかな贈物」
タイムトラベルで起きた「内破」で死者となった時間旅行士が、時間のループから逃れるためにとった手段は何だったのでしょう。本書の中で一番気に入った、美しい作品です。

他には、全権を担うコンピュータが全面戦争を仕掛けようとする相手が意外な「聖なる争い」。火星開拓村を訪れたサーカスが置いていく景品が恐ろしい「運のないゲーム」。20世紀CMが生み出し清潔重視の価値観が恐るべき未来を招く「傍観者」。ロボットが支配する未来社会で人間がクーデターを起こす「ジェイムズ・P・クロウ」

2015/3 一部は再読