りぼんの読書ノート

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マダム・マロリーと魔法のスパイス(リチャード・C.モレイス)

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ムンバイを飛び出した後、フランス山間の小さな町リュミエールに落ち着いたインド人一家。次男のハッサンをシェフにしてインド料理レストランを開いたのですが、通りの向こうには、傲慢なマダム・マロリーがオーナーシェフを務め、ミシュランの2つ星を誇るフレンチの名店があったのです。

たちまち始まる両家のバトル。しかしマロリーは、ハッサンの類まれなる料理の天分に気づくのです。それは味覚の「絶対音感」ともいうべき、スパイスを嗅ぎ分ける能力。ハッサンにフランス料理を教えたいと提案するマロリー。

原題は「THE HUNDRED-FOOT JOURNEY」。ハッサンが自宅を出て通りを横切る、ほんの30mほどの旅のこと。その間にハッサンが超えなくてはならなかったのは、人種と文化の違いです。それは、ハッサンが偉大なフレンチシェフへと向かう、はじめの一歩になりました。

レストランガイドの評価に一喜一憂する料理店。分子調理法の登場や、ブランド化の動きに揺れ動く伝統的フレンチの世界。雇用制度の矛盾、付加価値税の複雑さ、移民の増加など、フランス料理を取り巻く環境の問題も取り上げられますが、本書の本質はファンタジーなのでしょう。現実の世界では、「フレンチ・ドリーム」など簡単には実現するものではないのですから。ディズニーで映画化されたことも頷けます。

「黒トリュフを皮一面にはさんでローストしたヤマウズラ」などという料理の描写も、「一枚一枚ガクを切りとられ、目にも美しく形を整えられていくアーティチョーク」などという調理過程の説明も、目の前に映像が浮かんでくるようです。それと香りも!

2015/3