りぼんの読書ノート

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武蔵3(花村萬月)

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秀吉死す。世情が風雲急を告げる中で、17歳となった弁之助は、友人・然茂ノ介とともに武者修行の旅に出ます。吉川英治版の無能な又八とは異なり、然茂ノ介は生来の手首の柔軟さを生かして、手裏剣術の達人になっています。美男子でもあり、山落集団の娘と結婚して、既に息子も授かっているのです。

2人は、山陰の海辺で出会い親しくなった武芸者・秋山兄弟と不幸な別れをした後、西行して九州へ。大友氏と秀吉によって根絶やしにされた山伏たちの怨みを背負いながら、鷹巣山の山上で暮らす女性だけの集団に出会います。「女護が島」ならぬ「女護が山」ですから、もちろん「生と性」は大爆発。そしてそれは、隣の英彦山に住み着いた悪逆な山賊集団との「戦争」に繋がっていきます。

その後に訪れた京では、佐々木小次郎と再会。完全に位負けして、立ち会うこともなく、美禰の父親から旅の餞別にもらった斬馬刀を奪われる始末。人格最低の自己満足男として描かれる小次郎の強さの秘密は、どうやら「子供であること」にあるようです。修行とか鍛錬とかを意識することもなく、ただ剣が好きなだけ。遊びに熱中する子供の強さだというのです。彼の「燕返しはえげつない技ですけどね。

やがて故郷に戻った弁之助は、そこで「死」と間近に向き合い、自分の弱さに気付きます。早熟には過ぎますが、弁之助の「少年時代」は、この時点で終わったということなのでしょう。小次郎との決着も必要かもしれませんが、このシリーズもここで終わりでも良いのかもしれません。

2015/3