りぼんの読書ノート

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古事記 日本文学全集1(池澤夏樹編)

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池澤夏樹さんの個人編集による「日本文学全集」の第1巻は、自身の翻訳による『古事記』です。「もとの混乱した感じをどこまで残すか、その上でどうやって読みやすい今の日本語に移すか、翻訳は楽しい苦労だった」と語っていますが、その試みは成功したのでしょう。楽しく読めましたので。

「上巻」は、神々の誕生と世界の創生です。はじめは「国生み。神生み。黄泉平坂。天の岩戸。八岐大蛇」と続く高天原の物語。次いで、大国主命を主人公として「因幡白兎。受難と嫁取り。国作りと繁栄」と続く「出雲神話」。そして、高天原族の求めに応じて大国主命が豊芦原国を差し出す「国譲り」の結果、天孫ニニギが地上に降臨してきます。天孫降臨の際の猿田彦の登場と、木花咲夜姫と岩長姫のエピソード、さらに次の世代である海幸・山幸と豊玉姫の物語までは、まさに神話世界そのもの。

初代神武天皇から15代応神天皇までの治世を綴った「中巻」もまだ、神話的な物語が続きます。八咫烏に助けられて長脛彦との死闘を制した「神武東征」に始まり、沙本彦・沙本姫の兄妹による抒情的な垂神天皇暗殺未遂事件が描かれます。そして古事記のナンバーワンヒーロー「ヤマトタケル」が登場。誕生から死までが描かれた人物は、彼ひとりだとのこと。その後の興味深いエピソードは、神功皇后三韓征伐と、応神天皇による百済民渡来でしょうか。後に、母子ともに八幡神として祀られることになります。

第16代仁徳天皇から第33代推古天皇までの治世を綴った「下巻」は、次第に神話性が薄れていき、ついには「歴史」となっていく過程です。皇后の嫉妬に悩まされながら多くの子孫を残した仁徳天皇。帝位を棒に振った軽皇子と軽大郎女の兄妹相姦。父の敵の安康天皇を殺害し、後の雄略天皇に滅ぼされた眉輪王の変。こういった興味深いエピソードもあるものの、最後の数代はあっさり終了。歴史的には、蘇我氏物部氏の対立、聖徳太子による遣隋使や憲法制定などの大事件が起きていたのですが、もうそちらは「日本書紀」の世界なのでしょう。

まともに読んだのは初めてでしたが、冒頭からヤマトタケルまでの物語は結構覚えていました。あらためて感心したのは、古事記に登場する神々、神社、地名、氏名の由来などが現代まで伝えられていること。日本の歴史の継続性に感動します。「神代」は神話としても、「古事記」が成立した8世紀初頭までは、間違いなく遡れるということですから。

2015/3


【記憶に残ったトリビアをひとつ】
「服部」姓の読み方は「ハタオリ」に由来するそうです。服を作る部署の和名は「機織り」だったわけですので。