りぼんの読書ノート

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冬を待つ城(安部竜太郎)

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1590年。小田原攻めで北条氏を滅亡させた秀吉は、天下統一の総仕上げとして奥州諸藩の大名を再配置する「奥州仕置」を実行。しかしこれを不満とする九戸政実は、翌年、秀吉に臣従する南部信直を攻めたてます。もともと両者は、先代・春政の死後に南部家の当主を争った婿養子同士だったのです。

奥州仕置に反対する一揆の頻発に乗じた面もあるとはいえ、勝ち目のない戦いです。わずか3千人の九戸軍に対して、編成された征伐軍は総勢15万。籠城して善戦し、冬将軍の訪れを待つとの戦略も空しく、九戸軍はあっけなく降伏。主だった者は斬首されて、豊臣政権に対する最後の組織的抵抗は終わります。しかし、九戸一族は、なぜこのような戦いを仕掛けたのでしょうか。

著者はこの戦いを、直後の朝鮮出兵と関連付けて、「奥州の人民を守る戦いであった」と結論づけます。すなわち、寒冷な朝鮮半島で働かせる人足を奥州で集める「人狩り」を仕掛けたがっていた石田三成の先手を取って戦乱を起こし、降伏の条件として「人狩りはしない」との約束を、征伐軍の有力大名から得るための蜂起であったというのですが、いかがでしょう。

そこに至るまでの、「奥州藤原氏に遡る山の民伝説」や、「隠し硫黄鉱山の存在」や「オシラサマの秘術」などは「装飾」ですね。九戸一族の4兄弟を描き分けるテクニックと、「敵」であったはずの南部信直を後の「奥州人民の守り手」に変身させていく手際の良さは、著者の力量を示しています。

2015/3