りぼんの読書ノート

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料理人(ハリー・クレッシング)

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平和な田舎町コブは、ともにコブ氏の子孫であったヒル家とヴァイル家によって分割所有されていました。もともとコブ氏の居城であったプロミネンス城は、両家が再びひとつになるまでは住んではならないとされていたのですが、ようやく両家に結婚の話が持ち上がってきたというのが、物語の背景。

そんなときに、自転車に乗ってどこからともなく現れた料理人コンラッドは、身長195cmの長身痩せ型で、黒ずくめの衣装を着た奇妙な風体の男。さっそくヒル家にコックとして雇われて料理の天才ぶりを発揮するのですが、それだけではありません。ライバルのヴェイル家のコックをも追い出して、両家の厨房を任されると、病的に肥満していたヴァイル家の娘ダフネを痩せさせ、痩せすぎの者は太らせるなど、体調管理も自由自在。

さらに、料理に興味を持ったヒル家の息子ハロルドには料理を教え、都会の著名人を招待する喜びを覚えたヒル夫妻には、客のもてなし方を伝授します。皆、生き生きとしはじめて、ハロルドとダフネの結婚も間近と思われた時に、物語は暗転し始めるのです。

コンラッドこそが、ヒル家の者を仕えさせる「真の主人」のように見えてくるんですね。しかも、コンラッドに不信を感じた執事は老衰にさせられ、下男はアル中にさせられ、はじめは歓迎された痩身も肥満も度を越してくるともはや病気のレベル。

エンディングに近づくほどにブラックさを増してくる物語は、どう着地するのでしょう。訳者は本書のことを「現代の悪魔もの」と呼んでいますが、最後はかなり意味不明でもあるのです。著名な作家が変名で著したという本書は、まさしく「奇書」のひとつと言えるでしょう。

2015/3