りぼんの読書ノート

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最後の晩餐の作り方(ジョン・ランチェスター)

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食通のイギリス人であるタークィン・ウィノットは、第二の故郷であるプロヴァンスへとひとり旅をしている途中。ホテルやレストランでの食事の模様や、料理に関するレシピや薀蓄を延々とひけらかしながら、自分自身の生い立ちや家族の思い出をついでのように挿入していくのですが、いったいこれは何の本なのか。

元女優の母親のもとで、家庭教師とともにヨーロッパのあちこちで育てられたという本人はもちろん裕福な家の出身で、ダメ人間だった兄も彫刻家になったという申し分のない家族。しかし、乳母、コック、両親、兄と、主人公に近い人物は皆、次々と亡くなっていることが徐々にわかってきます。

しかも、今回のひとり旅も、ある新婚夫婦を執拗に追跡して観察しているようなのです。「正統派の料理書は、百科事典と告白録、両方の特徴を兼ねそなえています」との序文が、だんだんと凄みを帯びてくる。彼は何を隠していて、何を告白しようとしているのか。

ブリニのサワークリームとキャヴィア添え、仔羊のロースト、プロヴァンスのブイヤベース、桃の赤ワイン漬け、シンプルで優雅なオムレツ・・絢爛たるレシピの数々の中に紛れ込んだ告白は、その内容もさることながら、そのスタイルが読者を驚かせてくれます。

美食というものは官能的です。異常に追及すると、常人とは異なる性癖を持つようになるというのは、ありそうで怖い。そういえば、ハンニバル・レクター博士も美食家でした。

2009/3(再読の気もするけど、定かではありません^^;)