りぼんの読書ノート

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ブーリン家の姉妹(フィリッパ・グレゴリー)

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新興貴族ブーリン家の野望のために、イングランド国王ヘンリー8世のもとに差し出されたアンとメアリーの姉妹。1歳違いの姉妹は、今までの「ブーリン家で一番の娘」の競争から「イングランドで一番の女性」を競う戦いの中に放り込まれます。

 

先にヘンリー8世の目にとまったのは、おっとり系美少女の妹メアリー。悔しさに歯がみするアンを尻目に国王の娘と息子を産みますが、彼女にできたのはそこまで。飽きられたら捨てられる王の愛妾でしかなく、メアリー自身も母親として子供たちを慈しむ気持ちが勝ってくる。

 

代わって栄光の座に上り詰めるのは、上昇志向が強く才気に溢れた姉のアンでした。王の寵愛を背景にしての、跡継ぎを産めなかったキャサリン王妃を追い落とす権力闘争は、離婚を認めないローマ教皇からイングランド国教会を独立させるまでにエスカレートしていきます。寵愛を失った后は地位を失うという前例を作ったことは、アン自身の運命にも降りかかってくることになるのですが・・。

 

アン・ブーリンを日本で例えると「淀君」といったところでしょうか。権力者から寵愛されたことが、歴史を大きく展開させる結果に結びついていった女性。アンはエリザベス女王の母ということで、今ではイギリス国民からの人気も高いのですが、6年にも渡った王妃離婚騒動の間、庶民からは「魔女」と呼ばれる嫌われ者だったそうです。そんな中で王をじらし続けて、しかも寵愛を失わせないという極限状態での綱渡りが、彼女の精神を蝕んでいったのでしょう。

 

16世紀イングランド宮廷を舞台にしての、歴史にも大きな影響を与えた「女の闘い」は、思いっきりドロドロで大迫力です。この本が終始メアリーの一人称で書かれていることが、とっても効果的。栄華を極めながら失墜していく姉を見つめ続けるメアリーの揺れ動く視点が、本書の読ませどころ。愛情と憎悪が入り混じる中で、母親としての子どもへの愛情も絡んでくる。そもそも本書の原題は「もう1人のブーリン」なのです。互いに一番近い存在であり、永遠のライバルでもある「姉妹」という関係は複雑ですね。

 

2009/3