シリーズ第4作ですが、時系列もストーリーも、第1作の『ブーリン家の姉妹』から直接繋がっている物語です。
ヘンリー8世の2番目の王妃アン・ブーリンが処刑されてから4年後の1540年。待望の王子を産んだものの産褥死した3番目の王妃ジェーン・シーモアの後継の座にクレーブ公国のアン王女が選ばれますが、不運な事件から王に拒絶されてしまいます。これを好機とみたノーフォーク公爵は、王妃の侍女につけた14歳の姪キャサリンに王の誘惑を、さらに女官のジェーン・ブーリンに監視の指令を出すのですが・・。
物語は、わずか6ヶ月で離婚される4番目の王妃アン・オブ・クレーブと、5番目の王妃となる「リトル・キティ」ことキャサリン・ハワードと、歴代王妃の失墜や死を見守ってきたジェーン・ブーリンの3者によって、交互に一人称で語られていきます。
アン・ブーリンの「悪しき遺産」とは、用済みになった王妃が断頭台にかけられること。年老いて魅力を失い、専制君主となったヘンリー8世が支配する「恐怖の宮廷」から魔女の疑いをかけられそうになったアンは、断頭台送りを避けられるのか。
明るい希望に満ちて「さあ、わたしにはなにがある?」と自問する少女キャサリンの手元に最後に残ったものは何だったのか。かつて義妹アン・ブーリンへの嫉妬から夫ジョージとアンに対して不利な証言を行なったジェーンは、今何を思うのか。
第1作の主役アン・ブーリンや初代王妃アラゴンのキャサリンと比べて知名度で劣る第4代と5代の王妃の物語ですが、ドロドロ関係の度合いは前作に劣りません。むしろ、欧州情勢や英国教会という「挟雑物」がない分、当時の英国王室を支配した「恐怖感」が生々しく感じられます。
本書の後、一時代前の薔薇戦争へと向かった著者の関心は、チューダー王朝の物語に戻ってくるのでしょうか。シリーズ第3作『宮廷の愛人』で権力を把握したエリザベスと、スコットランド女王メアリーとの確執がどう描かれるのか、映画「ゴールデン・エイジ」を超えるのか、興味津々です。
2011/11