りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/10 不毛地帯(山崎豊子)

山崎豊子さんの長編を2作読みました。著者のどの作品にも共通するのですが、鋭く取材した現実の事件をもとに複数の人物を総合して、魅力ある登場人物を作り上げる手際はお見事です。全盛期に書かれた『不毛地帯』はもちろんのこと、近著『運命の人』でも年齢を感じさせません。

次点にあげた「アレクシア女史シリーズ」は、コミカルなゴチック・ロマン。ヴィクトリア朝イギリスは、狼男や吸血鬼の力を借りて世界一の強国となった!?

フィリッパ・グレゴリーさんの英国歴史物語は「薔薇戦争」シリーズに突入。あまりよく知らない時代ということもあり、今後の展開も楽しみです。
1.不毛地帯(山崎豊子)
11年もの間シベリアで抑留された後に帰還し、商社で辣腕を振るった伊藤忠の元会長・瀬島龍三氏がモデルですが、実際は複数人物の物語が総合されています。トップに上り詰める直前で会社を辞め、シベリア抑留者の親睦団体の会長となる道を選んだ主人公の人物造詣は著者の創造によるものですね。ビジネスの迫力と矛盾に満ちた主人公の魅力を余すところなく描き出した、山崎さんの傑作です。

2.あなたが最後に父親と会ったのは?(ブレイク・モリソン)
イギリスの田舎で開業医を営んでいた、あきれるほど人間的な父親の思い出と、死の床についた父親への思いを交互に書き綴った、亡き父に捧げる回想録。本書は作品として書かれた文章ではなくて、父の死に大きなショックを受けた自分に対するセラピーとして書いた断章を纏めたものだそうです。タイトルの問いは読者にも跳ね返ってきます・・。

3.東京観光(中島京子)
最近の中島さんの短編には「凄み」を感じます。直木賞を受賞したばかりですが、芥川賞を獲っても不思議ではないと思える作品がぎっしりと詰まった短編集。過去の記憶、男女関係の機微、夫婦の思いやり・・。一度だけ東京旅行をした際に行った、「東京で一番いい所」とは?

4.白薔薇の女王(フィリッパ・グレゴリー)
『ブーリン家の姉妹』にはじまるチューダー朝物語の次に著者が選んだのは、プランタジネット朝の滅亡を飾る「薔薇戦争」の時代。彼女の歴史物語にはいつも仕掛けがあるのですが、本書ではエドワード4世の王妃エリザベスが水の女メリュジーヌの末裔とされていること。英国王室史上最大の謎と言われる「ロンドン塔の悲劇」の真相は・・?

5.競売ナンバー49の叫び(トマス・ピンチョン)
かつて恋人だった大富豪の遺産執行人とされた平凡な主婦が見出したものは、遺産に含まれる大量の切手コレクションと、不可解なメッセージの群れ。それらは全て「秘密の私設郵便」に結びついていくのですが、意味する所となると悩ましい。それは反権力の象徴なのか。それともネット社会の到来を予言していたのか・・。解釈は読者の数だけありそうです。



2011/10/30