冷戦時代に予測された人類滅亡のシナリオは5つあるそうです。巨大隕石の衝突、磁極逆転、核戦争、新ウィルス、そして新人類の誕生とのこと。本書は、人類から進化した存在の誕生を巡る「エピソード・ゼロ」のような物語。
物語は、内戦下のコンゴと日本で進行します。コンゴでは特殊部隊出身の傭兵チームが、新しいウィルスに集団感染したというピグミー部族を絶滅させるという作戦に投入されますが、彼らがそこで見たのは、
「見たこともない生き物」でした。
「見たこともない生き物」でした。
日本では創薬化学を専攻する大学院生が、急死した父親の遺書に従って、難病の治療薬の開発を始めますが、現代化学の限界をはるかに超えた薬品デザイン用のソフトウェアが遺されていたことに気づきます。
この2つの話の繋がりが物語のポイントですし、新人類の幼児を殺害する命令に背いて救出を決意した傭兵チームが、ジャングルに張り巡らされた罠を逃れてコンゴから脱出する過程が「読ませどころ」ですが、一番のポイントはいち早く新人類の誕生を察知したアメリカ首脳たちの対応なのでしょう。
年代が2004年に設定されているのは、イラク戦争に突き進んだ前大統領と新保守主義を標榜したスタッフをイメージしているためであり、彼らの反応は予想範囲。新人類を殺害するために傭兵チームを派遣し、彼らが新人類側に寝返るやいなや、必殺の罠を準備するのは「政権」です。問題は「政策に関わる良心的科学者たちがどう行動するのか」ですね。
真の意味で「人類全体に奉仕する」のは、どちらの側なのか。本書のタイトルである「ジェノサイド(虐殺)」とは、どういう意味なのか。新人類はどのようにして誕生し、どのような能力を持ち、どのように現人類と関わっていく存在とされているのか。作者が想像力の限界に挑戦した作品といえるでしょう。
アフリカの子ども兵士問題や、アリスの鏡像ミルクの毒性など、どこかで聞いたことのあるような話が出てくるのは、少々マイナス点ですが・・。
2011/11