りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009/2 われらが歌う時(リチャード・パワーズ)

2月のベストは文句なしに『われらが歌う時』で決まりです。昨年の後半からリチャード・パワーズに嵌まりこんでしまい、今まで翻訳された本を読んできたのですが、ようやく新刊にたどり着きました。期待通りに素晴らしい。何よりこの作者は表現が美しいのです。昨年の出版ですが、年間ベストの候補です。
2位にあげた『コンゴ・ジャーニー』は驚愕のノンフィクション冒険物語。まだまだこんなに混沌とした「冒険」が、現代でも可能なんですね。

ジャック・ロンドンスタインベックを2冊ずつ読みました。最近あまり「古典」を読んでいませんが、現代文学を理解するためにも古典は必須。もちろんそれだけでなく、古典の持つ力強さや軽妙さも時には楽しみたいものです。

1.われらが歌う時(リチャード・パワーズ)
人種を超えた結婚によって生まれた家族の歴史という主旋律が、現代アメリカの人種問題、音楽、時間論という3つの通奏低音に乗って、美しく、激しく奏でられていきます。戦争から公民権運動という時代の流れが叩きつけてくる不協和音でさえ、過去から未来への一過程にすぎないというあたり、著者は未来をまだあきらめてはいません。「複数の今」を自在に行き来する時空間においては、理想の未来もまた「そこにある」のですが・・。

2.コンゴ・ジャーニー(レドモンド・オハンロン)
以前『大冒険時代』を読んで、「今ではこんなに心躍る冒険は消滅した」と書いたのは間違っていました。ピグミーの言い伝えにある幻の恐竜モケレ・ムベンベを捜し求めて、1990年にコンゴ川上流を探検した男たちの物語には、西欧的理性など無意味になってしまう「アフリカの混沌」がそっくりそのまま描かれています。不衛生で危険な内情を知ってしまうと、「冒険に出たい」などとは言い出せませんけど・・。

3.火を熾す (ジャック・ロンドン)
世紀の変わり目に生きたジャック・ロンドンは、40年の人生の中で、児童労働者であり、牡蠣密漁者であり、遠洋航海船の船員であり、失業者であり、独学の社会主義者だった方。訳者の柴田元幸さんは、「生きることをひとつの長い苦闘ととらえる作風」と言っています。本当にそうですね。どの短編も、主語と述語が明快な、短く力強い文章で綴られています。

4.ティンブクトゥ(ポール・オースター)
「愛情の分配」は可能なのでしょうか。というより「分配しないこと」が可能なのか。人語を解する雑種犬ボーンズが、全てを失って死を前にした飼い主ウィリーと交わした「純粋な愛情」と「絶対的な信頼」を読み取ることはそのまま、あたしたちの心の中にある「非純粋性」を見つめるという作業に繋がっていかざるを得ません。この得がたさが、いつの時代にも「純愛」を人気あるテーマとしている理由なのかもしれません。

5.映画篇 (金城一紀)
連れ合いを亡くした祖母を元気付けるために、孫たちが開いた「ローマの休日」上映会。人生の一点がこの上映会と交差した人たちの友情や愛の物語が、名作映画をモチーフに描かれます。とってもベタな物語ですが、この作品に限ってはベタでいいのです。映画が与えてくれる感動は、本来ベタなものだと思いますから。^^



2009/3/1