りぼんの読書ノート

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アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ(ジョー・マーチャント)

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読み応えのある科学ドキュメンタリーでした。1900年に沈没船から引き揚げられた機械の部品らしき物体が、2008年になってようやく判明されるまでの、科学者たちの執念の探索物語。しかもその正体は、古代ギリシャに始まる科学史を塗り替えてしまったのです。 

 

ギリシャのアンティキテラ島付近で発見された沈没船は、2000年前のもの。見事なブロンズ像や石像とともに引き上げられたのは、複雑な構造を有する歯車でした。中世に時計が発明されるまで、歯車による入出力の変換機能は存在しなかったはずなのに、なぜそのようなものがあったのでしょう。 

 

その謎を解くために、2つの世界大戦による中断をはさみながら、多くの人が挑戦。アテネ考古学博物館長ヴァレリオス・スタイス、英国の科学史家デレク・デ・ソーラ・プライス、ロンドン科学博物館員マイケル・ライト、プロジェクトを立ち上げた映画製作者トニー・フリースらが、執念の調査を繰り広げていきます。海洋学者のジャック=イヴ・クストーや、SF作家のアーサー・クラークなども大きな関心を寄せました。 

 

しかし最終的な判明には、高分解能X線断層撮影解読技術の発展を待たなければならなかったのです。プロジェクトは現在も継続中ですが、これは37個もの歯車を用いて太陽・月・惑星の運行を予測する天文計算機であり、地動説時代としては驚くべき精度の計算が可能であったとのこと。刻まれた文字や文献からは、アルキメデスが関与した可能性も浮かび上がっているそうです。 

 

ではなぜそのような高度技術が失われてしまったのか。あるいはイスラム世界に引き継がれていたのか。想像は広がりますが、それを検証するためには新たな発見が必要なのかもしれません。 

 

2020/1