りぼんの読書ノート

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はじまりのうたをさがす旅-赤い風のソングライン(川端裕人)

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音楽を志しながらも平凡なサラリーマン生活をしている隼人のところに舞い込んだのは、曽祖父からの遺産相続の話。戦前に真珠採りのダイバーとしてオーストラリアに渡った曽祖父ワジマは、アボリジニの生活に融けこんで、一族を繁栄させたとのこと。

オーストラリアに渡った隼人を待っていたのは、アボリジニのみならず世界中の民族と混血したワジマの孫・曾孫たちの中で、遺産相続者を決めるためのサバイバル・ゲーム。隼人は、アボリジニの血を強く引く持つシンガーのリサらとともに、砂漠を横断して「聖地」へと向かいます。

サバイバル・ゲームの理由は、文字を持たないアボリジニが歌で作った地図、すなわち「ソングライン」をたどっていくことなんですね。部族が歩んできた道の風景が次々と歌に織り込まれ、世代を超えて作り足されながら伝えられていくのが「ソングライン」。このゲームは、ワジマが歩んできた道を再現するものだったのです。

でも、子孫たちはさらに先に進むことも求められてしまう。「ワジマの後継者」を自認する男が目指すのは、アボリジニ居住区に散在するウランを利用して核保有をちらつかせながら、アボリジニの独立を果たすことでした。隼人やリサたちは、その男の導きに従うのか、それとも・・。

ダーウィンからカカドゥ国立公園を旅行したことがあります。カカドゥだけでも四国ほどの広さなのに、その東にはさらに広大なアボリジニ居住地のアーネムランドが文明人の訪問を拒んでいます。こういう所にいると、アボリジニの「生きている神話」も実感できるのでしょう。

一方で「白豪主義」の差別意識も強い国です。旅行中も、スーパーの駐車場で昼間から飲んだくれているアボリジニを何度も見かけました。アボリジニの文化が都市と差別に蝕まれているのも事実です。

著者は音楽の造詣も深いそうですが、日本人作家によって書かれたこの種の本が、どういう意味を持っているのかも、考えさせられてしまいました。ニコル・キッドマン主演の「オーストラリア」も見たいのですが、博愛的な白人が「善」として描かれているんだろうな。批判するつもりはないのですが・・。

2009/3