りぼんの読書ノート

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忘れられた花園(ケイト・モートン)

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バーネット、ブロンテ、デュモーリアらの後継者である「正統派英国文学」です。オーストラリアのブリスベンで祖母ネルを看取り、イギリスのコーンウォールにある海辺のコテージを相続した孫娘カサンドラは、叔母たちから、ネルはたったひとりでロンドンからの船に乗っていた身元不明の少女だったという秘密を聞かされます。

さらにネルはイギリスに渡り、自身の生誕の秘密をつきとめそうになりながら調査を断念。幼かったカサンドラを引き取ることになって、再度のイギリス訪問を断念してしまったというのです。祖母の過去を見つけなおすために、勇躍イギリスへと向かうカサンドラ

物語は「三つ編み」状態で進行します。1つめは、ネルがオーストラリアにやってきた1913年へと到る曾祖母の物語。2つめは、ネルがもう少しで過去をつきとめる寸前まで到った1975年の物語。そして3つめは、祖母の足跡を追う2005年のカサンドラの物語。

ネルの母親(カサンドラの曾祖母)は、コテージを含む広大な邸宅に住んでいた名門マウントラチェット家の令嬢ローズなのでしょうか。両親を失って邸宅に引き取られ、邸宅の女主人からうとまれていたローズの従妹のイライザなのでしょうか。それとも・・。そして、どうして幼いネルがひとりでオーストラリア行きの船に乗せられたのでしょう。

児童文学家でもあったイライザが遺した寓話が、重大なヒントになっていきます。徐々に明かされていく秘密は、母親を失った子どもたちと、子を失った母親たちの重層的な喪失の物語でした・・。でも、故人の過去を知ることが、自身の再生へと結びつく道ともなるのでしょう。たとえそれが悲劇であっても。事故で夫と息子を失ったばかりのカサンドラの心も動き始めます。

青木純子さんの翻訳もお見事。「後書き」で「未解決の謎」について触れているあたり、誠実さを感じます。^^

2011/7