りぼんの読書ノート

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伯林蝋人形館(皆川博子)

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1920年代のベルリン。敗戦、皇帝退位、革命と内戦、列強による蹂躙、インフレと混乱、一時的な繁栄、不況到来とナチス台頭という狂乱の時代を舞台にして、6人の男女が織り成す甘美にして残酷な物語。

貴族の血をひき軍人の道を歩むはずが、ジゴロとなって無為に生きるアルトゥール。ロシアから亡命し、売り子をしながら脚本家を夢見るナターリャ。プロレタリアートから這い上がり、ナチ党員となるフーゴー。ユダヤ人の血をひく大富豪のハインリヒ。薬を常用して無限の世界に生きる蝋人形師のマティアス。そしてカバレット「蝋人形館」の看板歌手ツェツィリエ。

これら6人の手による短編小説と作者略歴という形式で展開される物語は、誰が書いたものなのか。互いに矛盾する物語のどれが真実なのか。国家としてのアイデンティティが失われていく中、ある者は耽美な幻影に囚われ、ある者は一途な愛に生きようとし、それでも激動する時代からは逃げられない。彼らの姿はただ、蝋人形として残されるのみ・・。全てをコントロールしているかのようなツェツィリエですら、例外ではないのです。

内容も形式もなかなか野心的ですが、幻想と史実のバランスという意味では、かなり幻想に寄った作品です。個人的には総統の子らのように、もう少し史実に寄った作品のほうが好みです。

2015/3