りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/8 あるときの物語(ルース・オゼキ)

荒削りで完成度も決して高くない作品を1位としたのは、日系2世で曹洞宗の僧侶でもある著者の、「9.11と3.11を経験してしまった世界の救済」を願う思いが、強烈に伝わってきたから。2位から4位にあげたのは、それぞれ個性ある短編集です。 1.あ…

崩れゆく絆(アチェベ)

1958年。ナイジェリア独立前夜に、当時28歳の著者によって出版された本書は、「アフリカ人の見方でヨーロッパの植民地主義を語った」最初の小説として、「アフリカ文学の古典」となっています。 物語は3部からなります。第1部は、植民地支配前夜の部…

天冥の標1.メニー・メニー・シープ(小川一水)

かつて六つの勢力があった。 それらは「医師団(リエゾンドクター)」「宇宙軍(リカバラー)」「恋人(プロステテュート)」「亡霊(ダダー)」「石工(メイスン)」「議会(スカウト)」からなり、「救世群(プラクティス)」に抗した・・。 日本を代表す…

剃髪式(ボフミル・フラバル)

1920年代。ハプスブルク帝国崩壊後の「新しい生活」を、ボヘミア地方の町のビール醸造所を舞台にして生き生きと描き出した小説です。登場人物たちが皆「生き生きとしている」のは、当然ですね。モデルは新婚時代の両親なのですから。 ビール醸造所の支配…

ケイン・クロニクル 炎の魔術師たち 2(リック・リオーダン)

太陽神ラーによって魔界の牢獄に幽閉されていた「混沌の化身=大蛇アペプ」の復活まで、あと3日。古代ファラオの血を引く最強の魔術師の家系に生まれたカーターとセイディの兄妹は、戦いに敗れて命を落とした両親の予言に従い、世界中の若き魔術師たちの力…

ベティ・ザ・キッド(秋田禎信)

開拓時代のアメリカに酷似した世界で、「賞金稼ぎのキッド」として売り出し中のガンマンの正体は、少女ベティでした。父親殺しの汚名を着せられたベティは、真犯人のロングストライドを追って、町から町へと旅を続けているのです。 べティに同行するのは、彼…

オマル(ロラン・ジュヌフォール)

地球の5000倍にもおよぶ表面積を有する巨大惑星オマル。そこに暮らすヒト族、シレ族、ホドキン族の3種族は、いずれも古代に惑星外から移住してきたのですが、もはや起源は明らかではありません。 何者かの導きで飛行船イャルテル号に乗りこんだ3種族6…

オリーヴ・キタリッジの生活(エリザベス・ストラウト)

米国北東部メイン州にある、冴えない海辺の町クロズビーを舞台にした連作短編集。13編のすべてに登場するのがオリーヴ・キタリッジであり、全体を通してみると、中年から老年までの40年間の彼女の人生を描いた長編のようになっています。 「平凡な町の平…

遁走状態(ブライアン・エヴンソン)

岸本佐知子編/訳の奇妙なアンソロジー『居心地の悪い部屋』で冒頭を飾った「へベはジャリを殺す」の著者の短編集です。19作品が収録されていますので、それぞれの詳細を紹介することはできませんが、どれも破壊力抜群。本書の狂気に恐怖を感じるのは、自分…

濱次お役者双六 半可心中(田牧大和)

江戸の文政期を舞台にして大部屋女形・濱次の成長を描くシリーズ4作目は、順番からいうと「四ます目」なのですが、タイトルから「ます目」が消えてしまいました。まさかここで「上がり」というわけではありませんよね。 森田座の看板役者・野上紀十郎が、相…

濱次お役者双六 三ます目 翔ぶ梅(田牧大和)

江戸の文政期。周囲からも評価される才能の持ち主なのに、本人にはまるで欲のない大部屋女形・濱次の成長を描くシリーズ3作目は、濱次の引き抜き話を中心とした構成になっています。 「とちり蕎麦」 タイトルは、舞台でとちった役者が詫びとして楽屋中にふ…

ウール(ヒュー・ハウイー)

また1冊、優れたディストピア小説が誕生しました。 地上は汚染されており、地下144階建てのサイロの中で、厳密な思想統制と耐乏生活を余儀なくされている狭い社会。地上に出るのは防護服を着た犯罪者がサイロから放逐される時だけ。ではなぜ「清掃人」は…

あるときの物語(ルース・オゼキ)

カナダの海岸に漂着したハローキティの弁当箱に入っていたのは、日本の女子高生ナオが「未知の読み手」に向けて綴った日記でした。日記を読み始めたルースは、アメリカからの帰国子女であったナオが抱えている悩みに引き込まれていきます。 父親の失業、母親…

昨日までの世界(ジャレド・ダイアモンド)

サブタイトルは「文明の源流と人類の未来」。『銃・病原菌・鉄』の著者が、「人類にふさわしい社会」を模索した作品です。 ヨーロッパ社会が世界制覇を果たしたのは、些細で偶発的な環境要因の違いでしかなかったと考察した著者は、現在支配的な欧州文明を至…

少年十字軍(皆川博子)

13世紀フランス。キリスト教国家であるコンスタンティノープルを陥落させてしまった第4次十字軍の後、教皇インノケンティウス3世は説教師を派遣して新たな十字軍の派遣を訴えます。そこに登場したのが大天使ガブリエルのお告げを聞いたという、12歳の…

恋しくて(村上春樹/編訳)

村上春樹さんが選んで翻訳したラブストーリー9編に、書き下ろしの1編を加えた短編集です。小説家がアンソロジーを編むと、収録すべき作品数が足りなくても「自分で書いちまえ」という裏技があるので楽だそうです。村上さんによる「甘味度/苦味度」バロメ…

名文で巡る京都 国宝の寺(白洲正子ほか)

「日本を代表する作家23人の名文に導かれ京都を歩く」とのコンセプトで2008年に刊行されたシリーズですが、本書の第1巻「東山」が出ただけで中断してしまったようです。それぞれの寺院に対する複数の方々のさまざまな思いや感慨を読み比べるというの…

ロケットガール4 魔法使いとランデヴー(野尻抱介)

このシリーズのクライマックスは、やはり第3巻『私と月につきあって』の月面着陸ミッションの再開でした。短編3作と中篇1作からなる本書は「おまけ」のようなもの。それでもハードSF作家の野尻さんは、コミカルな展開の中にもさまざまな主張を織り込ん…

魔女の刻(アン・ライス)

全4巻のシリーズですが、第1巻の本書だけ未読という情けない状態でした。以前いたところの図書館に第1巻だけなかったのです。従って、その後の展開は既に知っていて、物語がどのように始まるのかを確認するだけのイレギュラーな読書になってしまいました。…

逃亡派(オルガ・トカルチュク)

前著『昼の家、夜の家』は、111もの断片的な物語を紡ぐことによって「土地の記憶」とでもいうようなものを浮かび上がらせた作品でした。本書もまた116の断章によって「旅」を描き出す作品です。 タイトルの「逃亡派」とは、アンチキリストの支配する社…

寂しい丘で狩りをする(辻原登)

ストーカーや性暴力への警察や社会の認識が不足していた1990年代。映画のフィルムエディターとして働く野添敦子は、かつて自分をレイプして逮捕された凶悪犯・押本史夫が出所して復讐の機会を狙っていると聞いて、脅えます。一方で、敦子に依頼されて押…

世界の果てが砕け散る(サイモン・ウィンチェスター)

著者は、地質学を専門とする科学ノンフィクションライターです。しかしながら、1906年のサンフランシスコ大地震について書かれた本書は、「科学書」の枠を超えて「歴史書」とでもいうべき多面性を備えています。そのあたりは、『クラカトアの大噴火』や…

ロケットガール3 私と月につきあって(野尻抱介)

このシリーズは、現実世界における宇宙探索・開発プロジェクトの再開を求めて、アポロ計画以来30年も途絶えている月面着陸ミッションの現代的バージョンを描くことが目的だったようです。1巻と2巻は、本書に至る準備段階のようにすら思えます。 日本の独…

ロケットガール2 天使は結果オーライ(野尻抱介)

日本の独立行政法人であるSSA(ソロモン宇宙協会)のパイロットの条件は、体重が40kg以下であること。それ以上重いと有人ロケット打ち上げに支障が出てしまうのです。偶然から誕生した女子高生宇宙飛行士の森田ゆかりと同年の異母妹マツリに、新しい…