りぼんの読書ノート

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オリーヴ・キタリッジの生活(エリザベス・ストラウト)

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米国北東部メイン州にある、冴えない海辺の町クロズビーを舞台にした連作短編集。13編のすべてに登場するのがオリーヴ・キタリッジであり、全体を通してみると、中年から老年までの40年間の彼女の人生を描いた長編のようになっています。

「平凡な町の平凡な人々の群像劇」の始祖であるシャーウッド・アンダスンのワインズバーグ・オハイオは、新聞記者見習いのジョージの都会への旅立ちで幕を閉じますが、それは20世紀への入口であった1895年の物語だったからでしょう。現代アメリカにおける本書の「救い」は、よりささやかで精神的なものにならざるを得ません。オリーブを主役とする作品だけでも紹介しておきましょう。

「薬局 」 オリーブの夫ヘンリーは、経営していた薬局で雇った若い女性店員デニースに、息苦しい家庭からの救いを見出していました。おそらく若後家の隣人デイジーにも。

「小さな破裂 」 オリーブは一人息子クリストファーの結婚相手である気の強いスザンヌが気に入りません。人生における「大きな破裂」とは結婚や子どもであり、生きるよすがであるのに、うっかりすると命取りになってしまう。だからちょっとした「小さな破裂」も必要・・とオリーブは思うのです。

「別の道 」 病院で強盗にあって人質になった際のキタリッジ夫妻の口喧嘩は、2人の関係に亀裂を入れてしまったようです。「息子が小賢しいユダヤ女と結婚するほど子育てを誤った原因」として、妻は夫の母を、夫は妻の父を、責めてしまったのです。

「チューリップ」 嫁にそそのかされ、新居を捨てて西海岸に移ってしまったクリストファーは、嫁と離婚した後も故郷に帰ってくるつもりはなさそうです。そんな中、ヘンリーは倒れて介護施設に入ってしまいます。オリーヴは自分より不幸そうなラーキン家のルイーズを訪ねるのですが、不幸を比較してはいけません。

「セキュリティ」  2児の母である女性と再婚したクリストファーはニューヨークに戻ってきます。妊娠した妻を手伝って欲しいという息子からの依頼で、田舎から出てきた72歳のオリーブですが、セラピストの影響を受けて子どもっぽい不満を母にぶつける息子とはうまくいきません。息子の家を飛び出したオリーブは、警戒厳重な空港でキレてしまいます。

「川 」 ヘンリーを失って一年半、図書館の駐車場で轢きそうになった老人男性ジャックと、ディナーをともにしたオリーブに、人間関係の悩みが戻ってきます。これは新しい「大きな破裂」になるのでしょうか。

オリーブが脇役として登場する作品は、厳しい数学教師であったオリーブが自殺を考えて故郷に戻ってきた教え子と出会う「上げ潮 」。妻子あるマルコムとの別れを決断したピアニストが演奏の最中に彼の家に電話をかける「ピアノ弾き」摂食障害の娘を見てオリーブが大泣きしてしまう「飢える」

老夫婦がいつかは訪れる別れのときを意識する「冬のコンサート」。夫を亡くした教え子が「良くなったらどこへ行こうかいう旅のバスケットを持たない人などいるのか」と語る「旅のバスケット」。何もかもうまくいかない女性が「あたしの人生、こんなはずじゃない」と考え続けて過ごした人生を振り返る「犯人 」

1956年にメイン州に生まれて42歳で作家デビューした著者は、2009年に本書でピューリッツァー賞を受賞しました。

2014/8