りぼんの読書ノート

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濱次お役者双六 半可心中(田牧大和)

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江戸の文政期を舞台にして大部屋女形・濱次の成長を描くシリーズ4作目は、順番からいうと「四ます目」なのですが、タイトルから「ます目」が消えてしまいました。まさかここで「上がり」というわけではありませんよね。

森田座の看板役者・野上紀十郎が、相手役を濱次に変えて欲しいと言い出します。普通ならこんな我儘が通じることなどないのですが、それには事情がありました。濱次の魅力に気付いた座付作者の松馬が、新作に登場する芯の強いお姫様を、濱次に当て込んで書いてしまったのです。それを見抜いた紀十郎が座主に直談判に及んだ結果、失敗したら濱次も紀十郎も「森田座を出る」と言う条件で代役として演じることを認められたのですが、濱次は大迷惑。

折りしも、稽古からの帰り道で心中寸前の男女に遭遇した濱次は、現実の恋に夢中になっている娘の顔がちらつくようになって、恋する女の役を演れなくなってしまうんですね。濱次はどうやって、このピンチを乗り切ることができるのでしょう。それともこれは、才能を持ちながら欲のない濱次が「大化け」するチャンスになるのでしょうか。

恋人のために自分を投げ出しながら、恋人にそれを悟られないように気づかう微妙な女心を演じるには、強さと優しさが必要なのですね。烏鷺長屋に住む櫛職人の五月の生き方や、心中未遂娘の未熟ながら一途で素直な恋心など、現実の「人情修行」が濱次を成長させていくのですが、最後は自分の体験が求められていくはず。やはり、ここで終えてはいけないシリーズだと思います。

2014/8