りぼんの読書ノート

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剃髪式(ボフミル・フラバル)

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1920年代。ハプスブルク帝国崩壊後の「新しい生活」を、ボヘミア地方の町のビール醸造所を舞台にして生き生きと描き出した小説です。登場人物たちが皆「生き生きとしている」のは、当然ですね。モデルは新婚時代の両親なのですから。

ビール醸造所の支配人フランツィンに嫁いだマリシュカは、奔放で明るく、誰からも好かれる女性です。自慢は長くてふさふさとした金髪で、髪の中に「何千匹もの黄金の蜂や何千匹もの黄金の蛍を宿している」と言われるほど。そんな彼女が好きなのは、ランプに火が灯される美しい瞬間。でもラジオと電気の登場に象徴される新しい時代が、すぐそこまできています

新しい時代には、一族の道化役としての役割を果たしている、著者の叔父のペピンのような人物の居場所はあるのでしょうか。絶えず愉快な冒険を楽しみ、品のない小咄を話し続ける夫の弟のことは、マリシュカも大好きなのですが。肥溜めに落ちる下ネタはともかく、アライグマのエピソードは私もツボにきました。

後書きにあるように、新しい時代を象徴する言葉は「短縮」なのでしょう。新しい技術は時間と距離の短縮をもたらし、日常生活の冗長さは切り詰められていくのです。しかし短縮による進歩の裏側には、椅子の足を切るような愚かなできごとも、子犬の尻尾を切って狂死させてしまうという悲しいできごともあったのです。

それでも、いやおうなしに進んでいく時代にはついていくしかありません。マリシュカ自慢の金髪を短く切ってしまったことに驚き悲しんだフランツィンだって、妻の新しい魅力に気づくことになるのでしょう。陽気で幸福な時代のできごとです。チェコは十数年後にナチスの侵略を受けることになるのですから。

2014/8