りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

時の止まった小さな町(ボフミル・フラバル)

イメージ 1

松籟社の「東欧のコレクション」シリーズのスピンアウト企画として、20世紀チェコで不遇の時を過ごした小説家、ボフミル・フラバルのコレクションが出版されています。本書はその第3弾。

本書は、自身の両親をモデルとして描いた前作剃髪式の直接の続編になります。ビール醸造所の支配人であった父親フランツィンと、奔放で明るく誰からも好かれた母親マリシュカの間に生まれた少年、すなわち著者自身が語り手。ハプスブルク家崩壊後の新しい時代で居場所を失ったかのような叔父ぺピンも、まだまだ健在で、破天荒ぶりを見せつけてくれます。

しかし、チェコの小さな町にも戦争が忍び寄ってきます。醸造所はゲシュタポに接収され、軍需物資工場とされてしまいます。町の人々の消極的抵抗は、ほとんど役に立ちません。それでも、公然と反ナチス的な保元をしたぺピン叔父が処刑されずに済んだあたりは、まだまだマシだったのかもしれません。

この時すでに止まりかけていた「町の時」は、戦後のソ連支配によってが完全に止められてしまいます。経営側と見なされて醸造所から追放されてしまったフランツィンは、次第に過去の回想の中に生きるようになっていき、フランツ皇帝の時代を懐かしみ続けるペピン叔父と同質化していきます、そして教会の塔の壊れた時計が象徴しているように、誰も時代を修理しようとしなくなっていくのです。

ビロード革命以降、時は再び動き出したのでしょうか。しかし、ひとたび時を止めてしまった古い世代の人たちの時間は、もはや動きようもないのかもしれません。

2017/5