りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ブーイングの作法(佐藤亜紀)

29歳の若さで『バルタザールの遍歴』を書き上げ、日本ファンタジーノヴェル大賞を1991年に受賞した佐藤亜紀さんが、92年~94年にかけて発表した、オペラと映画に関するエッセイ集。 そういえば、佐藤さんは『小説のストラテジー』で、「小説を味わ…

青年のための読書クラブ(桜庭一樹)

東京山の手のお嬢様学校「聖マリアナ学園」の冴えない読書クラブは、王道を行く生徒会や、華々しい演劇部とは異なって、吹き溜まり状態。でも読書クラブには、歴代のクラブ員が100年に渡って匿名で 記録し続けた「裏学園史」が存在していたのです。 19…

ボッシュの子(ジョジアーヌ・クリュゲール)

「いつの国でも、どの時代でも子供たちは生まれる。それは戦争の時代であっても変わらない」。 映画「ボレロ」で、ナチの軍楽隊長の子を宿したクラブ歌手が、頭を丸刈りにされて解放後のパリから追放される場面がありました。フランスで20万人いるといわれ…

きみはポラリス(三浦しをん)

「妄想の女王」三浦しをんがおくる、「極めつけ」のラブストーリー集。なせ「極めつけ」かというと、ここに登場する11編10組のカップルは皆、ちょっと「普通ではない」のです。 「永遠に完成しない2通の手紙」と「永遠に続く手紙の最初の一文」を冒頭と…

サウンドトラック(古川日出男)

幼くして小笠原諸島の無人島に漂着したトウタとヒツジコ。2人が熱帯と化した東京に戻ったときに、何かが起こります。2人に共通するのは、人で満ち溢れる東京に抱く違和感。2人は東京を破壊したくなるのです。でも、それだけだったら『コインロッカーベイ…

最後から二番目の真実(フィリップ・K・ディック)

ディックの作品の読みにくさは、いい意味でも悪い意味でも、読者の想像を裏切る展開にあるのでしょう。ある展開を想像しながら読むと、あちこちで引っかかって、読書の流れが遮られてしまうのです。しかも「心あまりて言葉足らず」的なところがあって、作品…

魔法(クリストファー・プリースト)

『双生児』が良かったので、『奇術師』を再読して、さらに本書に行き着きました。結論からいうと、3冊の中でこれがベスト! 『双生児』では双子がたどった歴史のズレ、『奇術師』では瞬間異動に隠された秘密と、テーマそのものは、はじめから明らかにされて…

お腹召しませ(浅田次郎)

出張前に読んだ本です。最近の著者の「現代のお涙頂戴物語」には少々辟易してしまうのですが、江戸末期が舞台であれば、臭みは消えてうまさが光ります。『五郎次殿御始末』や『憑神』や『壬生義士伝』などと、同じ系統の作品といって良いでしょう。 藩の公金…

夜愁(サラ・ウォーターズ)

「そう。これが、あたしという人間の成れの果て・・」。若き名手、サラ・ウォーターズが贈る、めくるめく夜と戦争の物語は、主人公のひとりであるケイの、こんなつぶやきで幕を開けます。 ケイ、ヘレン、ジュリアの3人の女性の同性愛関係を中心に巡る物語は…

空飛ぶタイヤ(池井戸潤)

前回の直木賞選考で、最終候補に残っただけのことはある作品です。 トレーラーの走行中に外れたタイヤが、通りがかりの母子を襲った事故。そのトレーラーのメーカーがホープ自動車であり、同じ財閥グループのホープ重工や、東京ホープ銀行が支援する・・と聞…

ドリームバスター4(宮部みゆき)

テラと呼ばれる惑星で起きた時空をゆがめる規模のトラブルの結果、この星の凶悪犯たちは地球の人々の「夢」に逃亡してしまいました。「ドリームバスター」と呼ばれる賞金稼ぎたちは、地球人の夢の中にダイブして、凶悪犯を追跡・逮捕しているのです。 第4巻…

溺れる人魚たち(ジュリー・オリンジャー)

1973年生まれというから、まだ若い女性作家です。ユダヤ系アメリカ人として生まれ育ってきた著者が、個人的体験を題材として、思春期の少女が感じる「息苦しさ」を描いた短編集。少女が大人になるときに通らなければならない「息苦しくもがく瞬間」。原…

鯨の王(藤崎慎吾)

ソナー音の反響を利用して、水中の様子を映像化してしまう音響照明弾や、イルカの脳をベースにした人工知能を備えた深海潜航艇などの、SF的な道具立ても登場しますが、本書は『白鯨』の流れをくむ海洋冒険小説です。 航行中の米攻撃型原潜内で、分子振動波…

ハドリアヌス帝の回想(マルグリット・ユルスナール)

塩野七生さん、佐藤亜紀さん、須賀敦子さんと、本書が引用された本は何冊も読んでいたのに、やっとオリジナルにたどりつきました。 死を前にして、後継者に向けて自らの人生を語るハドリアヌス。それは、病床から人生を達観するかのようなトーンで語られるモ…

くうねるところすむところ(平安寿子)

求人情報誌の編集の仕事も上司との不倫の恋も行き詰まって、一人で飲みつぶれた30歳の誕生日の夜、梨央の人生は変わりました。 全然、カッコイイことじゃない。工事中の建設現場に入り込み、高い所に上って叫んでみようとしたら、足がすくんで動けなくなっ…

1985年の奇跡(五十嵐貴久)

1985年というと、阪神タイガース奇跡の優勝の年。当時の高校生は、「夕焼けニャンニャン」に夢中だったんですね。新田恵利と国生さゆりが、高校生の人気を2分していたのか。この時代に「青春」を生きた年代の方々には、懐かしいんだろうな。 さて本書で…

フロイトの弟子と旅する長椅子(ダイ・シージェ)

『バルザックと小さな中国のお針子』に続けて読みました。著者は、フランスに住み、フランス語で書く中国人作家です。 ちょっと悪い冗談を聞いているかのような小説なのです。長くフランスに滞在してフロイト派の精神分析学を学んだ主人公が、中国で最初の精…

文学賞メッタ斬り!2007年版(豊崎由美、大森望)

このシリーズも3作め。すっかり、毎年の恒例行事になったかのようです。でも「07年度版・公募新人賞の傾向と対策」や「最新版文学賞事情」は、ちょっと地味でしたね。去年は、作品に恵まれなかったのでしょうか。ここで斬りまくられるほどの価値がある作…

奇術師(クリストファー・プリースト)

最近出版された『双生児』を読み、この人の面白さを再認識して読み返しました。この本は「幻想小説」に分類されるのでしょうが、語り口の巧みさも、仕掛けの面白さも、やっぱり超一流。結末を知っていても、ぐいぐい引き込まれてしまいます。 5部からなる小…

ねにもつタイプ(岸本佐知子)

5月のBest 1に選んだ『空中スキップ(ジュディ・バドニィッツ)』の翻訳をされた、岸本さんのエッセイ集です。 どこに着地するのか想像もつかないほど跳ねまわり、いきなり世界が180度変わってしまうバドウィッツに負けず劣らず、岸本さんも相当に跳んで…

観光(ラッタウット・ラープチャルーンサップ)

アメリカに移民したタイ人の著者が欧米とタイの両方の視点から、通り過ぎていくだけの観光客と通り過ぎられるだけのタイ人の人生を、一瞬、交差させてくれます。 冒頭の「ガイジン」は、アメリカ娘ばかりに恋してしまう混血児の話。いくら英語が上手でハンサ…

七姫幻想(森谷明子)

『千年の黙』で『源氏物語』の失われた一帖の謎を紫式部自身に探求させた著者が、織姫伝説に秘められた物語を紡ぎ出しました。遙か昔から水辺に住み、不思議な力を持ち、機を織る美しい女たち。彼女らの秘められた逢瀬は、古代からの禁忌に触れる悲しい運命…

2007/6 双生児(クリストファー・プリースト)

今月の1位と2位は簡単に決まったけど、3位以下は迷いました。結局、好きなタイプの小説を入れましたが、強く印象に残ったのは、読後感は最悪だった『ある島の可能性』(ミシェル・ウエルベック)。 クローン技術の進歩によって実質的に死を克服したネオ・…

沈黙のフライバイ(野尻抱介)

日本のハードSF史に残る傑作である『太陽の簒奪者』の作者が、宇宙開発技術の現在の到達点をベースにして、近未来に想いを馳せたリアリスティックな短編集。 『沈黙のフライバイ』では、1グラムの探査機を無数に飛ばすという「鮭の卵計画」で恒星探査計画…

夏化粧(池上永一)

産婆のオバァは、実はものすごい力を持ったまじない師だった! オバァが取り上げた赤ちゃんたちには、皆、オバァの勝手なまじないがかかっていたことが遺言で明らかにされたもんだから、島は大混乱。 たいていは「逆上がりができない」とか、「試験に落ち続…