りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サウンドトラック(古川日出男)

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幼くして小笠原諸島無人島に漂着したトウタとヒツジコ。2人が熱帯と化した東京に戻ったときに、何かが起こります。2人に共通するのは、人で満ち溢れる東京に抱く違和感。2人は東京を破壊したくなるのです。でも、それだけだったら『コインロッカーベイビーズ』と変わらない。破壊しようとする詩人の熱情だけでは、何者も生み出せない。

この本は、おもしろいのですが大失敗作です。最後は支離滅裂になっちゃうし、なんのカタストロフィーも感じさせない。熱帯となり無国籍化する東京というイメージだって、目新しくもない。でもこの本が凄いのは、2人が人類と対峙する方法なのです。

ヒツジコは、魂を揺さぶるダンスで世界を動かします。彼女のダンスを見ると、自らが生きてきた規範から脱出したくなるのです。彼女に揺さぶられない、つまり自らも舞える少女たちが使徒となり、彼女が通う学園のある西荻を、日本から独立に導くのです。ヒツジコの使徒たちは、皆、それぞれに魅力的。優等生遅刻少女・中山優高に、ホラーダンサー寮生カツラ少女・湊冬子に、全身全霊ボクシング少女・堀バビロニア

それに較べると、武器を手にしてしまうトウタは魅力に欠けます。でもトウタの相棒となった、写真銃を手にしてカラスを従えた両性具有的無国籍少年少女・レニの魅力が、それを補います。

あえて再度言いますが、本書の完成度はめちゃくちゃ低いのです。『ベルカ、吠えないのか?』を思わせる退官した軍用犬育成のプロだって、無国籍地帯の神楽坂の地底に生息する「斜面人」だって、尻切れトンボ。

本書の底流をなす思想は、破壊的で、あるいは反動的なものなのかもしれません。でも、それすらどうでもいいと思わせる、主人公たちの魅力が本書を読ませます。帰国の夜行便でしっかり眠ろうと思ったら、しっかり読んじゃいました。完成度を犠牲にした疾走感こそが、本書の魅力です。

2007/7 帰国便の機内にて