りぼんの読書ノート

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最後から二番目の真実(フィリップ・K・ディック)

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ディックの作品の読みにくさは、いい意味でも悪い意味でも、読者の想像を裏切る展開にあるのでしょう。ある展開を想像しながら読むと、あちこちで引っかかって、読書の流れが遮られてしまうのです。しかも「心あまりて言葉足らず」的なところがあって、作品の完成度は決して高くないですしね。まぁ。そこがディックの魅力なのですが・・。

本書もそんな一冊。2025年。地上を壊滅させた第三次世界大戦は終わることを知らず、人々は地下の共同生活タンクで暮らして、もう15年にもなっています。地下で製造されるロボットによって、地上の戦争が戦われているのです。ところが・・。やむを得ない事情で、西側世界の最高権力者である護民官ヤンシーの指示にそむいて地上に出ることになってしまった男が見たものは、戦争はたった2年で終わっていた・・・という驚愕の真実。

東西両世界の軍事指導者を手玉に取り地上の権力を一手に収めた男が、人々を支配するために真実を隠し通していたのです。しかも人々に戦争が続いていると信じさせていた護民官ヤンシーは、文字通りの「操り人形」にすぎないというのです。・・・と聞くと、真実を知った男が、地下世界の人々を立ち上がらせる「マトリックス」のような話かと思いますよね。ところが、物語は異様な方向に進んでいくのです。

地上の権力者たちがライバルを貶めるために争い始め、主人公の男もそれに巻き込まれてしまうのです。そこに、予知能力を持った探偵が(なんと「プレコグ」ですよ! 映画「マイノリティ・レポート」を思い出しますよね)登場し、さらには作り物の人形だったヤンシーが実体を持って現れて、権力争いに加わるというのですから・・。

ディックが主題としたかったのは、タイトルにもある通り、二重三重の「虚構」そのものであり、「欺瞞」を受け入れることの恐怖だったのかもしれません。そしてそれは、冷戦時代に生きたディックが一番恐れていたものだったのでしょう。

2007/7 出張先のホテルにて


(P.S.)
返却した瞬間に、登場人物の名前が思い出せなくなってしまいました(悲)。