りぼんの読書ノート

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鯨の王(藤崎慎吾)

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ソナー音の反響を利用して、水中の様子を映像化してしまう音響照明弾や、イルカの脳をベースにした人工知能を備えた深海潜航艇などの、SF的な道具立ても登場しますが、本書は『白鯨』の流れをくむ海洋冒険小説です。

航行中の米攻撃型原潜内で、分子振動波の直撃を受けたように乗員が変死。同じ頃、クジラの専門家である須藤博士が、深海で発見・採集した超巨大クジラの骨格の一部が、何者かに略奪されるという事件が起きていました。米海軍は、マリアナ海溝で極秘に稼動させていた深海鉱山に技術者を送り、深海で原潜に何が起こったのか調査を開始すると同時に、最新鋭の原潜を海域に送り込みます。先の事故で弟を失っていた原潜の船長の名前は、なんと「エイブラハム」。彼が執念的にクジラを追う予感が漂います。

一方で日本の須藤博士は巨大クジラの謎に再挑戦すべく国際的製薬企業のサポートを得て、操縦士・ホノカとともに潜航艇に乗り込むのですが、深海で彼らが見たのは、人類に知られていなかった巨大クジラの一族が超音波と巨体を武器にして深海鉱山や原潜を襲う姿でした。

巨大クジラが、なぜ、今まで発見されていなかったのか。彼らはなぜ今になって、人類を襲うようになったのか。そして人類とクジラの戦いは、どう決着がつくのか。国際製薬会社のバイオ・ハンターや、テロリストが絡んでくるあたりはちょっとゴチャゴチャしちゃった感もあるけれど、楽しい本でした。

ところで、主人公の須藤博士にはモデルがいるそうです。実物は、本書で描かれていたような「クジラバカのダメ親父」ではないということですが、巻末の作者との対談で「続編が書かれる場合には、(男の子みたいなホノカではなくて)、もっと第二次性徴のはっきりしたパートナーと組みたい」などと言い放っていたあたり、相当のオヤジです。^^

2007/7