りぼんの読書ノート

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溺れる人魚たち(ジュリー・オリンジャー)

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1973年生まれというから、まだ若い女性作家です。ユダヤアメリカ人として生まれ育ってきた著者が、個人的体験を題材として、思春期の少女が感じる「息苦しさ」を描いた短編集。少女が大人になるときに通らなければならない「息苦しくもがく瞬間」。原題は「how to breathe underwater」ですが、これを「溺れる人魚」と表現した、訳者の感覚もいいですね。

冒頭の「イザベル・フィッシュ」で描かれた、水中で溺れるイザベルのイメージが、全編を通じて漂います。イザベルは、兄の恋人が運転するクルマが水中に落ち、ひとりだけ脱出して助かって以来、兄から冷たい仕打ちを受けるようになってしまっていたのです。

「あなたに」は、憧れの男の子とバッチリ、ダンスを決めたせいで、クラスの女性たちから陰湿なイジメを受けるようになってしまった過去の自分への忠告。もちろん、忠告は間に合いません。突然の事故、母の病気、同性からのイジメ、異性からの性的な誘い、姉や従姉妹に対する微妙にうとましい思い、宗教との出会い・・・。女の子の思春期には、色んな関門があるのです。

この息苦しさは、だれにでもあったのでしょう。たとえ群れることなく、何事に対しても「超然とした」フリをしていたとしても、それはひとつの「水面下での呼吸法」なのでしょうから。

2007/7