りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

人類対自然(ダイアン・クック)

かなりホラー寄りの不条理劇が12編収録されています。何が起こっているのか全然わからないのに、物語世界に読者を引き込んでいくパワーが凄まじい。極限状況に追い込まれた登場人物たちの必死さがダイレクトに伝わってくるのです。

 

「前に進む」。

配偶者を亡くして自活できない男女が送り込まれる収容先は、まるで前世紀の孤児院のようです。引き取り手の気に入るように性格矯正を強いられ、懲罰やイジメに怯える日々・・。もちろん亡くなった配偶者のことなど、忘れなければいけません。

 

「最後の日々の過ごしかた」

地球的な大洪水で高級住宅地も一軒また一軒と水中に没していく中、まだ残っている家の持ち主は、助けを乞う人々を受け入れるべきなのでしょうか。それは滅びを早めるだけなのですが。

 

「誰かの赤ちゃん」

なにものかによって幼児がさらわれていく世界のヒントになったのは、補色生物から我が子を守ろうとする野生生物のドキュメンタリーだったそうです。しかし大きく育った子どもたちを返されても、既に気持ちの整理をつけて新しい生活を始めた母親たちはとまどうばかりです。

 

「ガール・オン・ガール」

まるで男性異常者のような暴力衝動を、少女たちが同性に抱くことが普通の世界。そんな世界で起こることは通常世界の虐めとは比較になりません。

 

「人類対自然」

ホラー世界の「ボートの三人男」ですね。友人たちと出かけた湖で遭難し、救命ボートで漂流する中で、男たちの狂気が次第に高まっていきます。しかしこれは本音がむき出しになっていくだけなのかもしれません。そっちの方がずっと怖いな。

 

上昇婚

壊れた世界の中で、1人目の夫も2人目の夫も、家の外に出た瞬間に襲われてしまいました。逞しい3人目の夫は妻を守り続けたものの、生まれてきた息子から守ることはできないようです。

 

「やつが来る」

普通は夜に住宅街を襲う怪物が昼間に高層ビルを襲撃するとは、エリート役員たちも思いが及ばなかったようです。鋭い鉤爪を持つ捕食者が、ジュラシックパークのラプトルのように思えます。

 

「気象学者デイヴ・サンタナ

本書の中で唯一普通の世界を舞台とする物語ですが、だからこそ気に入った男性を付け狙う女性の怖さが際立ちます。最後は彼女もあきらめたのでしょうか。それとも彼の娘が標的にされるのでしょうか。

 

「漂流物」

次々と相手を変える女性の洗濯物の中に、子供用の衣類が少しずつ紛れ込んできます。これらは生まれることのなかった子供たちの衣服なのでしょうか。

 

「おたずね者」

特異な生殖能力を持つためにあらゆる女に追い求められる「みんなの男」は、ひとりの女性と落ち着いた関係を望みはじめたとたんに皆から付け狙われます。そういえば彼も、先代を殺害して今の地位を手に入れたのでした。

 

「豊作年」

平年よりも多くの実が生る豊作の年には、あちこちから動物が集まってきて恵みの果実をむさぼり食うのです。それが人間に起こったらどういうことになるのでしょう。樹木だって豊作年の後は丸裸にされてしまうのかもしれません。

 

「不要の森」

抽選で「不要」と認定された子どもたちは焼却炉に送られる運命です。しかし運よくダストシュートから脱出しても、彼らにはもっとひどい運命が待ち構えているのです。

 

2022/7