りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ライフボート(シャーロット・ローガン)

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沈没した豪華客船から脱出し生き残った女性グレースが、殺人罪で裁判にかけられる冒頭シーンから、物語は回想に入っていきます。従って、救命ボートで何が起きたのか、その真実を解明していくのが小説のテーマなのですが、そう簡単なものではありません。本書は、グレースが語る「裁判の供述書」という体裁をとっているのであり、もちろん彼女は「信用ならざる語り手」なのです。

そもそも、グレースが豪華客船に乗っていた理由からして怪しいのです。策を弄してヘンリーという大金持ちと婚約し、一緒にアメリカに渡るところだったというのですが、ヘンリーも死亡しているため、誰も証明できないのですから。

グレースが訴えられたのは、救命ボートで指導的役割を担っていた独裁的な船員を、他の女性たちと共謀して殺害したという疑いのため。しかし、船員の横暴性も、判断の誤りも、他の人たちの反応も、途中で亡くなった人たちの死因も、全部グレースの供述通りなのかどうか、もちろん判定できません。グレース自身が常軌を失っている可能性すらあるのです。私の判定では、彼女の弱弱しい見せかけや主体性のなさも含めて、全てが計算であり、限りなくクロに近いのですが・・。

漂流ものの最近の傑作というとパイの物語(ヤン・マーテル)が思い出されますが、そこまでのインパクトはありませんね。しかし、全てがあやふやなままで気持ち悪さが残る点では、こちらのほうが上かもしれません。

2016/1