りぼんの読書ノート

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あきない世傳 金と銀11 風待ち篇(高田郁)

江戸に店を開いて8年。卑劣なライバル音羽屋の後添いとなった妹・結の裏切り、絹物を扱う呉服商仲間からの除外という困難を乗り越えて、五鈴屋の木綿ビジネスは成長しています。湯上りの身拭いにすぎなかった「湯帷子」を、夕涼みや寛ぎ着としての「浴衣」に進化させた藍染め浴衣地は、江戸中の支持を集めました。

 

しかし万事順調に動き始めたところで、江戸の街は災禍に襲われてしまいます。宝暦10年の大火が起こったのです。幸い五十屋がある浅草田原町は無事でしたが、義姉・菊栄が歌舞伎とのコラボで売り出しを準備していた簪ビジネスは振り出しに戻ってしまいました。さらに物価が高騰する中で木綿生産地の不作や、音羽屋による繰綿の買い占めによって、浅草太物仲間は窮地に陥ってしまいます。

 

そんな中で各店が協力しあう浅草太物仲間の強みが発揮されていきます。蔵に白生地の在庫を抱えていた大店は率先して仲間内に分け与え、幸は藍染め浴衣地を製造する型染めの技を仲間内に公開することを決めました。もちろん単なる同情ではなく、「独占品は短命であり、息長く愛用され続けるには需要拡大が必要」という信念に基づく判断でした。さらに相撲年寄の馴染み客から力士用の浴衣地の注文を受けたことが、さらなる需要を喚起していくのです。今でもお相撲さんといえが浴衣のイメージがありますからね。将来のために下野地方を新たな木綿産地として育成する取り組みも始まりました。菊栄さんにも思わぬ味方が登場。さらには浅草太物仲間が呉服を扱えるよう、幕府当局への申請も行っていくようです。

 

顧客や商売仲間や生産者・加工者・流通業者とともに発展しようとしてきた幸のビジネスに対する姿勢が、「恩返し」という形で回収されてきましたね。次巻の副題が「出帆篇」であることは、幸と五鈴屋の大きな発展を予感させてくれます。完全に仲違いしてしまった妹・結との関係も気になるところです。

 

2022/7