りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夏の涯ての島(イアン・R・マクラウド)

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いかにもイングランド的な叙情系SF短編が並ぶ秀作です。こういう雰囲気は好きですね。とりわけ「チョップ・ガール」から「夏の果ての島」までの3作、歴史を感じさせる作品が気に入りました。

「帰還」地球軌道に捉えられた小型ブラックホールへの突入ミッションを与えられた12人の宇宙飛行士には、ブラックホールの中心に向かって永遠に落ち続ける運命が待っていました。しかし何故彼らは、何度も何度も地球へと戻ってきては、ぎこちない会話を家族と交わし、再びブラックホールへと向かい続けているのでしょうか。

「わが家のサッカーボール」人間が変身能力を持つ世界。なぜ母親はナマケモノへと不可逆的な変身をして人間に戻れなくなってしまったのでしょうか。そして、家にあった古いサッカーボールとは何だったのでしょうか。

「チョップ・ガール」第二次世界大戦中に空軍婦人補助部隊員として働いた若い女性は、彼女と関わりを持った者に不運をもたらすチョップ・ガール(人殺し女)として恐れられるようになってしまいます。彼女が幸運の申し子のように思われていた男性パイロットと出会ったときに、何が起きたのでしょうか。

「ドレイクの方程式に新しい光を」ナノテクによる人体改造が普通になった時代。もう誰も期待することのない異星からの交信を待ち続ける老人を訪れてきたのは、かつて彼の元を去っていった女性でした。二人の間には何があり、彼女は何故今になって戻ってきたのでしょう。ドレイクの方程式とは、人類が宇宙人と遭遇する確率を表す数式のこと。

「夏の涯ての島」いわゆる歴史改変SFですね。ドイツに敗れて国際社会で孤立するイギリスでは、チャーチルの後を継いだカリスマ的な首相ジョン・アーサーによってファシズムが進められ、ユダヤ人や同性愛者が差別的待遇を受けるようになっていたという設定。ゲイであることを隠している大学教授のジェフリーは、若き日のジョン・アーサーと同性愛の関係を結んでいたことがあったのですが、今やその秘密は彼を恐怖に陥れていたのです。彼が密かに決意した行動とは?

「転落のイザベル」<10001世界もの>という架空の世界を舞台にしたシリーズものの一作です。巨大な島々の都であるゲジラーに生まれたイザベルは、夜明けの教会の巨大な光塔の歌い手の一人でしたが、司書のゲニアという女性と出合って掟を破ってしまうのです。彼女に下された罰とは・・。せつなく美しい作品です。高度な科学技術が支配する中世のような世界という設定には、物語作者をひきつける魅力があるようです。

「息吹き苔」この作品も同様に<10001世界もの>の一作です。3人の母とともに山を越えて海辺の町に出てきた少女ジャリラは、美しい少女ナイラとの恋や、カラルという少年との出会いを経験して成長していき、やがてある重大な選択をすることになるのですが・・。人類の大部分が女性である世界ですが、どこかアラビアンな雰囲気が漂っています。シリーズ名からして「千夜一夜物語」をイメージしているようですしね。

2012/9