りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夏化粧(池上永一)

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産婆のオバァは、実はものすごい力を持ったまじない師だった! オバァが取り上げた赤ちゃんたちには、皆、オバァの勝手なまじないがかかっていたことが遺言で明らかにされたもんだから、島は大混乱。

たいていは「逆上がりができない」とか、「試験に落ち続ける」とか、「口紅がはみだしてしまう」とか、どうでもいいようなまじないなのです。でも、オバァが最後に取り上げた、津奈美の息子の場合は深刻でした。なんせ、母以外の人には見えなくなってしまったのですから。

津奈美がやっとの思いで、神様から聞き出した「まじない解除法」とは、「陰(いん)」の世界に入って、他の人間から「7つの願い」を奪うこと。もちろん愛するベビーのために、彼女は必死になるのです。最初の3つは「ミュージシャンになる夢」、「オリンピック選手になる夢」、「映画スターになる夢」で、そういう願いを奪うことは大変だったけど心の痛みは感じませんでした。でも「想像力の豊かな子になるように」、「一生懸命働く人になるように」、「頭のいい子になるように」との願いを奪うとなると、鬼にならなければいけません。

愛する息子のために涙をこらえて他人の夢を奪い続けた津奈美でしたが、最後の願いを奪うのは本当に辛くて悲しいことでした。島に伝わる「ニガイ石=願い石」は、あまりにも残酷な石だったのです。

風車祭(カジマヤー)』や、『バガージマヌパナス』と同系列にある沖縄伝承と結びついた作品ですが、ちょっと物足りなさを感じるのは、ハチャメチャなオバァが既に亡くなってしまっていたからでしょうか。その分、若い母の一途な気持ちは、胸に迫ってくるのですが・・。

2007/6