りぼんの読書ノート

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沈黙のフライバイ(野尻抱介)

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日本のハードSF史に残る傑作である『太陽の簒奪者』の作者が、宇宙開発技術の現在の到達点をベースにして、近未来に想いを馳せたリアリスティックな短編集。

『沈黙のフライバイ』では、1グラムの探査機を無数に飛ばすという「鮭の卵計画」で恒星探査計画に取り組み、『轍の先にあるもの』では小惑星エロスの写真に写ったわだちの謎を解くために、機会を捉えて60過ぎの年齢に達した著者本人が、惑星に飛び立ちます。でもすぐに「次」を計画しちゃうのですから、まだまだ若い!

『片道切符』では、テロが蔓延する地球から火星へと殖民する夢を叶えるべく、アメリカのロケットで2組の夫婦が飛び立ちます。エンディングで弘子が放った「いけいけやっちまえ!」の言葉は、人間まだまだ捨てたモンじゃないと思わせてくれますし、ゆりかごから墓場まででは、タイ人がエビ養殖地で思いついた人間の生態系を閉じ込めて太陽発電でエネルギーを補充する発想が、大量の火星入植を可能にしてくれます。

そして『大風呂敷と蜘蛛の糸では、大学生・紗絵の思いつきが、高度60キロの繋留索から巨大気球に乗って高度80キロの宇宙へと飛び立つ夢を叶えさせてくれるのです。「できっこないですか?」の一言に本気になる科学者たち。「人が乗るなら不眠不休で戦える」という科学者たち。そんな科学者たちの心意気と遊び心も感じさせてくれる一冊です。

2007/6