りぼんの読書ノート

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青い海の宇宙港 秋冬篇(川端裕人)

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近未来の2020年代。ロケット発射場がある種子島をモデルにした多根島に「宇宙遊学」した少年少女たちの1年間を描いた作品の後半です。上巻「春夏篇では、夏休みに「シュガー・ロケット」を飛ばしたものの、到達高度は500m。高度100km以上とされる宇宙には遥かに及んでいません。しかも、親の事情で夏休みのロケット発射に立ち会えなかった周太には、欲求不満もたまっていたのです。

そこで少年たちが計画したのは、深宇宙探査機を打ち上げるという本格的なロケット発射計画でした。地球の重力圏の先にある深宇宙の高度は、高度200万kmというケタ違いの高さ。太陽帆で自走するわずか2kgの探査機を打ち上げるためには、重さ5トンのロケットが必要であり、これはもう子供の計画レベルではありません。しかし少年たちの熱意は、ついに島の大人たちを動かすのです。

倉庫に眠っていた大量の中古エンジンの活用や、島の町工場で作った試作部品だけでなく、組立、燃料、運搬、制御などの作業は大人たちに頼らなければなりません。でも少年たちにも重要な仕事があるのです。それは探査機内に折りたたまれていた帆を物理法則に逆らわずに開かせること。生物大好き少年の駆は、花が開く様子や、蝶が羽を広げる様子を観察し続けます。そして作られた世界最軽量の探査機は、フライバイを繰り返すことによって人類史上最速に到達し、太洋圏脱出速度を得ることになるというのですが・・。

著者が20~30年前に着想した「民間ロケット」というテーマは、既に実現しています。宇宙開発により多くの者が参加することによって何が生み出されていくのか。そして、神々が宿る島の自然と宇宙とが「ひとつのもの」であるという感覚を得た少年少女たちは、どこまで成長していくのか。本書には、未来に対する著者の熱いメッセージが込められているようです。

2017/9