りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/6 双生児(クリストファー・プリースト)

今月の1位と2位は簡単に決まったけど、3位以下は迷いました。結局、好きなタイプの小説を入れましたが、強く印象に残ったのは、読後感は最悪だった『ある島の可能性』(ミシェル・ウエルベック)。

クローン技術の進歩によって実質的に死を克服したネオ・ヒューマンが、生きることの意義も、愛することの意味も見失って彷徨うという暗い話。あまりにも精神的ダウナー系で、もう、この人の本は読む気はしないのですが・・。
1.双生児 (クリストファー・プリースト)
ドイツとの戦争に巻き込まれていく、ジャックとジョーの双子の物語。ところが英空軍の爆撃機操縦士となったジャックが生き残る歴史と、良心的兵役拒否として赤十字職員となったジョーが生き残った歴史は異なっていたのです。揺れ続ける枠組みと曖昧になる虚実に身を任せて、幻惑されてみてはいかがでしょう。物語の展開も楽しめる一冊です。

2.前巷説百物語 (京極夏彦)
「百物語シリーズ」の主人公、「小股潜りの又市」の若き日の物語。まだ青臭さの残る又市が、荒事による血生臭い解決を嫌い、「人の裁きには不平でも、神仏の裁きなら受け入れる」という世間に向けて「仕掛け」の図面を描くようになるまでの成長物語。もちろん作品としても完璧!

3.市民ヴィンス (ジェス・ウォルター)
証人保護プログラムのもとで、しがない街のしがないドーナッツ屋の雇われ店長として新しい生活をはじめたくヴィンスが、命を狙われる。時あたかも、カーターとレーガンが大統領の座を争っている真っ最中。はじめて得た投票権を行使すべく、「人生を本当にやり直したい」と改悛するヴィンスの運命やいかに! お洒落で楽しい小説でした。

4.ユルスナールの靴 (須賀敦子)
「きっちり足にあった靴さえあれば、どこまでも歩いていける!」。今世紀フランスを代表する作家ユルスナールに魅せられた筆者が、「彼女のあとについて歩くように」して綴った、美しい作品です。ユルスナールの作品と人生に触れながら、そこにそっと自分の人生を寄り添わしていく構成は、2人の女性によるハーモニーのよう。

5.鹿男あをによし (万城目学)
女子高教師、剣道スポコン、古代歴史ロマン、人知れず世界を救う話、・・と並べると、どこかで聞いたことがあるような話ばかりですが、「奈良」を舞台にして、世界遺産の「鹿」をからめ、「坊ちゃん」のテイストを振り掛けることによって、「読ませる」物語に仕上がりました。突拍子もない話だけど、ゆったりとした時間が流れ、古代の香り漂う「奈良」での出来事と思えば、許せちゃうのが不思議です。





2007/7/2