りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

空飛ぶタイヤ(池井戸潤)

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前回の直木賞選考で、最終候補に残っただけのことはある作品です。

トレーラーの走行中に外れたタイヤが、通りがかりの母子を襲った事故。そのトレーラーのメーカーがホープ自動車であり、同じ財閥グループのホープ重工や、東京ホープ銀行が支援する・・と聞けば、何をモデルにした小説かは、誰でも想像がつくでしょう。

本書の主人公は、問題のトレーラーの持ち主である運送会社の赤松社長。整備は万全だったはずなのに、ホープ自動車の調査結果は「整備不良」。警察からは過失致死の容疑をかけられ、被害者の遺族からは誠意を疑われ、大口取引先を失い、銀行は貸付を引き上げようとし、さらに子供までが学校でイジメにあう・・と、とにかく絶望のどん底に叩き込まれます。

ホープ自動車の「リコール隠し」を取材して暴露しようとした週刊誌に期待をかけるものの、莫大な広告宣伝費を武器にして、マスコミにまで圧力をかけるホープ自動車の前に、記事はボツにされてしまう。赤松社長は、巨大企業に対して、孤立無援の戦いを挑むのです。

彼の戦いの結果は、もう誰でも知ってる通り。某自動車会社の「リコール隠し」は社会問題化して、社会的制裁を受ける訳ですが、エンディングは少々事実とは変えられています。赤松社長の「ど根性物語」も読み応えがあるのですが、会社勤めの身としては、大企業であるホープ自動車の傲慢な態度と、世間常識とは異なる「会社の論理」が身につまされます。本当にありそうなんだもん。あれっ、著者が勤めていたのは本書の「東京ホープ銀行」のモデルとなった銀行でしたね。

だからサブの登場人物である、ホープ自動車の沢田課長や、東京ホープ銀行の井崎課長たちが、人間としてなすべきことと、企業内で保身を図る気持ちの間で揺れ動く様子は、決して他人事ではありません。幸いこの数年で、企業のコンプライアンス意識は格段に向上しています。現代社会では「隠すことのリスク」は、あまりにも大きいのですから。会社生活をおくる上で、こんな問題で悩むことがないように願います。

2007/7