りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

フロイトの弟子と旅する長椅子(ダイ・シージェ)

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バルザックと小さな中国のお針子』に続けて読みました。著者は、フランスに住み、フランス語で書く中国人作家です。

ちょっと悪い冗談を聞いているかのような小説なのです。長くフランスに滞在してフロイト派の精神分析学を学んだ主人公が、中国で最初の精神分析医になろうと帰国。ところが大学時代に片思いだった女性が政治犯として投獄されているのを知り、判事を買収して彼女を救い出そうとするのですが、判事が要求したのは、なんと「処女」だったのです。主人公の莫(モー)は、フロイトが患者をリラックスさせるのに使ったというソファーにみたてた長椅子を持って、処女探しの旅に出ます。

でも相手が処女かなんて直接聞けないし、仮に聞いたとしても本当の答えが返ってくるとは限りません。モーは、女性たちから夢を聞き出し、「夢判断」で処女判定をしようとするのですが、「あなたはお父さんに性的欲望を抱いていたのではありませんか」なんて言われても、リアクションのしようもありませんよね。だいたい、モー自身、40を超えているのに童貞なんですから。

では、著者はこの本で何を言いたかったのでしょう。賄賂が横行し、まだまだ風紀も乱れている中国の悲惨な現実を、モーというちょっとズレた人物の目を通して見せることによって、笑い飛ばしたかったのでしょうか。それとも逆に、西洋かぶれした中国人(著者本人かしら?)が現実の中国では、いかにピントはずれで無力なものかを、自嘲的に表してみたかったのでしょうか。

どちらもありそうです。教条的で現実に合っていないという点では、中国共産主義の理念も、初期フロイト学派の夢判断も、いい勝負なのですし・・。

2007/7