りぼんの読書ノート

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陽だまり幻想曲(楊逸)

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日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者による、中編2作品。2010年に出版されています。

「ピラミッドの憂鬱」
一人っ子政策で大切に育てられてきた中国の青年は、2人の親と4人の祖父母に支えられているピラミッドの頂点。裕福な両親からの仕送りで日本に留学してきた2人の青年は、勉強も仕事もせずにユルユルの生活をおくっていたのですが、次第に状況が変わってきます。人生のどこかでピラミッドは逆転し、将来は親たちを養う義務を負っているんですね。折しも片方の親が賄賂で逮捕され、2人は、憂鬱な時期が訪れることを自覚しはじめるのです。

「陽だまり幻想曲」
無口だが優しい夫と、もうすぐ3歳になる息子と暮らしていた主人公が、生活環境を変えようと思い立って郊外に引っ越してきます。隣家は老夫婦の大家と、6人の男の子がいる大家族。子だくさんの夫婦が毎週金曜に決まって始める大喧嘩には辟易したものの、一人っ子の息子は友達ができて喜んでいる様子。しかし、事件が起こるのです。こういう展開は、著者の作品にしては珍しいですね。

また主人公の女性は、日本人なのか、日本で暮らす中国人なのか、設定が明記されていません。普遍的な日本語作家としての力量を示したということでしょうか。もっとも、これまでの著者の最高傑作は、やはり日本で暮らす中国人を主人公とした獅子頭(シーズトォ)でしょう。2011年の作品です。

2015/12