りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/9 Best 3

1.ブルシット・ジョブ(デヴィッド・グレーバー) 「ブルシット・ジョブ」とは著者の造語のようで、役立たないにもかかわらずそれを自覚して従事する仕事について名付けたもの。広報、ロビイスト、顧問弁護士、コンプライアンス担当者、中間管理職などの、…

ヒトリシズカ(誉田哲也)

母親に暴力を振るう男を排除した8歳の少女。妹を弄んで自殺に追い込んだ男に対する兄の復讐劇を手助けした13歳の少女。恋人をストーカーから守れなかった男に殺人を教唆した15歳の少女。自分の死を偽装して暴力団幹部の愛人となった15歳の少女。そし…

STORY OF UJI(林真理子)

林真理子版『源氏物語』は、千年も前に書かれた古典が既に現代小説と同様の骨格を有していたことを、徹底的にあぶりだしてくれています。本書に先立つ『六条御息所源氏がたり』で描かれた光源氏の姿は、中年以降に急速にオヤジ化する親の七光りを振りかざし…

菊亭八百善の人びと(宮尾登美子)

江戸時代の初期に創業し、江戸の風流を極めて随一と言われながら戦争によって店を閉めていた料理屋・八百善が、店の再興を決めたのは昭和26年のことでした。9代目夫人だった栗山恵津子が八百善の味と歴史を綴った『食前方丈』は、先代から店の再興を告げ…

ベイカー街の女たちと幽霊少年団(ミシェル・バークビイ)

シャーロック・ホームズを下宿させていたハドスン夫人とワトスンの妻であるメアリーがタッグを組んで、19世紀ロンドンの女性たちを苦しめる闇に立ち向かう本格ミステリシリーズの第2作です。前作の『ベイカー街の女たち』と同様に、コナン・ドイル財団に…

ベイカー街の女たち(ミシェル・バークビイ)

「ベイカー街221B」といえば誰もが知っているホームズの住所であり、一時はワトソンも同居していました。しかしそこにもうひとり住んでいたことは忘れられがちです。それはもちろんハドソン夫人。風変わりな下宿人を献身的に世話し、依頼人や来客を2階…

ローンガール・ハードボイルド(コートニー・サマーズ)

トレーラーパークの管理人をしている年老いた女性から、NYのラジオ局にかかってきた1本の電話。その女性は言うのです。祖母代わりとして気にかけ、トレーラーハウスに住まわせてあげていた19歳のセイディが姿を消したと。そしてセイディは、13歳だっ…

あきない世傳 金と銀9 淵泉篇(高田郁)

呉服太物商の五鈴屋が大坂から江戸に出店して4年目。生産者・型掘師・染物刷などの待遇を改善して商売の基礎を固め、新しいサービスやデザインを提供して顧客層を広げてきた店主の幸に試練が訪れます。なんと最大の信頼を置いていた妹の結が、店の命運を賭…

すべての小さきもののために(ウォーカー・ハミルトン)

家出をした少年がイギリス南西部の辺境であるコーンウォールの森に迷い込み、自然を破壊する現代社会を憎む森の妖精のような老人と遭遇する物語・・と思ったら、主人公のボビーは31歳の青年でした。しかし彼は、幼い頃の自動車事故がもとで成長が遅れ、傷…

犬と負け犬(ジョン・ファンテ)

本書が、著者の自伝的小説の最後の作品になります。粗暴で昔気質の父親に苦しめられた『バンディーニ家よ、春を待て』の少年は、『塵に訊け』ではサンフランシスコで作家の卵となり、『満ちみてる生』ではハリウッドの脚本家となって父親となります。本書で…

涼子点景1964(森谷明子)

1964年の東京オリンピックは、戦後日本にとって途轍もなく大きなイベントだったのでしょう。首都高、地下鉄、モノレール、新幹線、ホテル、競技施設などのインフラを一気に整備したことは、敗戦国が国際社会の大舞台に再登場するために正装するようなも…

最終飛行(佐藤賢一)

フランス中近世を舞台とする小説の第一人者である著者が、はじめてフランス現代史に挑んだ作品が2019年に出版された『ドゥ・ゴール』です。その2年後に書かれた本書は副産物なのかもしれませんが、作家と戦争というテーマは小説家として避けては通れな…

わが殿(畠中恵)

大江戸ファンタジー小説を得意とする畠中さんの作品ですが、本書にはいっさい怪異は登場しません。浅田次郎さんの幕末小説と言われても信じてしまいそうな作品です。逆に浅田さんの『大名倒産』には貧乏神や七福神などが登場しているのですけれど。 それもそ…

ブルシット・ジョブ(デヴィッド・グレーバー)

「ブルシット・ジョブ」とは著者の造語のようで、役立たないにもかかわらずそれを自覚して従事する仕事について名付けたもの。「クソどうでもいい仕事の理論」との副題はかなりぶっ飛んでいますが、真面目な経済学理論書です。 ブルシット・ジョブの主要5類…

春燈(宮尾登美子)

著者渾身の自伝小説は結果的に3部作となっています。著者の少女時代から短い青春期を描いた本書は、義母の視点から幼少期の生家の事情を描いたデビュー作『櫂』と、戦時下の満州での苦難の結婚生活に焦点を当てた『朱夏(未読)』を結び付ける、第2部に相…

宇宙の春(ケン・リュウ)

成長著しい中国SF界を牽引するだけでなく、世界に向けて発信してきたケン・リュウの第4短編集です。既刊の『紙の動物園』、『母の記憶に』、『生まれ変わり』と合わせて全短編が邦訳されたことになるとのことですが、あらためて範囲の広さとレベルの高さ…

チンギス紀 9(北方謙三)

モンゴル族を統一してケレイト王国を滅ぼしたテムジンは、ついに草原の覇者として「チンギス・カン」を名乗ります。部族の長たちを集めてクリルタイを開き、天を崇める祭壇の前でチンギスという尊称を贈られてカンに推戴されたのです。しかし彼の心はまだ果…

名残の花(澤田瞳子)

天保の改革において目付や南町奉行として蘭学や市中の取り締まりを行い「妖怪」と呼ばれた鳥居耀蔵は、のちに失脚して有罪となり、丸亀藩に預けられます。明治維新で恩赦を受けて20年間の軟禁生活を終えた時、江戸は東京と名前を変えていたのです。実家の…

ラグタイム(E・L・ドクトロウ)

アメリカにおける20世紀初めから第1次世界大戦までの20年ほどの期間を、著者は「ラグタイム」と名付けました。黒人音楽に強い影響を受けてジャズの前身となった音楽ジャンルのことであり、リズムのシンコペーションという特徴から「ずれた時間」を意味…

宇宙(そら)へ(メアリ・ロビネット・コワル)

いわゆる「歴史改変SF」ですが、物語の進行において変えられたことはさして大きなことではありません。それは1950年代に遡って有人宇宙開発計画が加速され、その後も停滞することがなかったこと。しかしそのきっかけはとてつもない出来事でした。19…

スキマワラシ(恩田陸)

「常野物語シリーズ」をはじめとして、この著者のファンタジー系作品は妙に収まりが悪いのですが、それも魅力なのでしょう。『上と中』のように結末までしっかり書き切った作品は、むしろそれほど面白くないのです。 物に触れると過去が見えるという不思議な…

じい散歩(藤野千夜)

「認知症が進む老妻を介護する老人」というと、老老介護をテーマとするシリアスな作品のように思えますが、「飄々としたユーモアと温かさ」が伝わってきます。89歳になってなお人生を謳歌している主人公の新平のキャラに負うところが大きいようです。小さ…

鬼神の如く(葉室麟)

加賀騒動、伊達騒動とならんで「三大お家騒動」と呼ばれる肥後黒田藩の内紛は、寛永10年(1633年)の出来事でした。祖父・如水(官兵衛)、父・長政の跡を継いで乱脈な藩政を敷いただ黒田家3代目の忠之のことを、筆頭家老であった栗山大膳が「主君に…

彼女たちが眠る家(原田ひ香)

九州の離島にあって、ある共通の問題を抱える女たちが世間から隠れて静かに共同生活を送る「グループホーム」。代表者の田中マリアを除いては本名や出自も互いに知ることなく、テントウムシやオオムラサキなどの呼び名を与えられて暮らしています。彼女たち…