りぼんの読書ノート

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彼女たちが眠る家(原田ひ香)

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九州の離島にあって、ある共通の問題を抱える女たちが世間から隠れて静かに共同生活を送る「グループホーム」。代表者の田中マリアを除いては本名や出自も互いに知ることなく、テントウムシオオムラサキなどの呼び名を与えられて暮らしています。彼女たちの問題は最後まで明かされませんが、おそらくリベンジポルノや、プライベート動画の流出や、AVの強要や、誹謗中傷などのネットによつ被害者たちなのでしょう。

 

そこでは彼女たちの過去が知られることのないよう、ネット利用は厳禁で、島の人たちとも最低限の接触にとどめられています。しかしそんな厳しい禁忌のもとに行動している彼女たちの家に、ある奔放な母娘が入居してきたことで、平穏な日常が崩れようとしていました。マリアと一緒にホームを立ち上げたテントウムシは、強い責任感から彼女たちの目的を探し出そうとするのですが、それもまた禁忌を破る行動なのです。

 

本編の間に、異国で暮らす少女が次第に精神を病んでいく母親を見つめる過去の物語が挿入されてきます。実はその少女はホーム入居者のひとりなのですが、その正体は最後になるまで明かされません。そしてその少女の独白のなかに、全てを解き明かす事実が潜んでいるという構成が見事です。ネット被害者の人物特定も平気で行われ、被害者であるのに息を潜めて生きることを余儀なくされるという、現代社会の大きな矛盾をテーマとした野心的な作品でした。

 

2021/9