りぼんの読書ノート

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あきない世傳 金と銀9 淵泉篇(高田郁)

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呉服太物商の五鈴屋が大坂から江戸に出店して4年目。生産者・型掘師・染物刷などの待遇を改善して商売の基礎を固め、新しいサービスやデザインを提供して顧客層を広げてきた店主の幸に試練が訪れます。なんと最大の信頼を置いていた妹の結が、店の命運を賭けて売り出そうとしていた文字小紋染の型紙とともに失踪してしまったのです。やがて幸のライバルとなっていく結の心中には、いったい何があったのでしょう。

 

形彫師の機転によって最悪の事態こそ免れましたが、さらに厳しい試練が襲い掛かってきます。新参の五鈴屋をこころよく思っていなかった呉服商たちに陥れられて、呉服仲間から外されてしまったのです。この当時、同業仲間に加わっていないということは顧客からの信用を失うことであり、もはや呉服の商売を続けていくことはできません。木綿製品の太物しか扱えなくなった五鈴屋は再起できるのでしょうか。70年前に呉服仲間を外されながら超一流の大店になった越後屋という先例もあるようなのですが・・。

 

しかし幸は絶望の淵から立ち上がりそうです。きっかけは亡くなった兄の学友であった儒学者が教えてくれた『菜根譚』の一節でした。「衰退の兆しが盛運の中にあるように、新たな芽生えは零落の中に潜んでいる」との含蓄ある言葉が、幸の背中を押してくれます。5年ぶりに大坂に戻り懐かしい人々との再会の喜びに浸った幸は、知恵を絞って新しいビジネスを立ち上げようとするのです。もちろん、これまで培ってきた人間関係も重要ですね。「商道を究めることを縦糸に、折々の人間模様を緯糸に、織りなされていく江戸時代中期の商家の物語」は、いよいよ佳境に入っていくようです。

 

2021/9