りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/4 Best 3

1.アウグストゥス(ジョン・ウィリアムズ) 養父カエサルを継いで地中海世界を統一し、ローマ帝国初代皇帝となったオクタウィウスに贈られた尊称がアウグストゥス。偉大な名前と若い友人たちしか持っていなかった18歳の青年はどのようにして、カエサルの…

スミソン氏の遺骨(リチャード・T・コンロイ)

1927年にテネシーで生まれた著者は、原子力研究所、海外領事館勤務の外交局職員、国務省職員などを経験した後で、スンソニアン博物館に長く務めた経歴を持っています。本書の主人公であるヘンリー・スラッグズは、42歳で国務省からスミソニアンに出向…

寒椿(宮尾登美子)

高知の芸妓子方屋の娘である悦子が、同じ家で姉妹のように暮らした4人の芸妓たちの生きざまを語ります。50歳を過ぎて作家となっている悦子はもちろん著者の分身であり、女衒あがりの実父と素人出身の養母が営む子方屋も、自伝的小説『櫂』にある通り。4…

架空の王国(高野史緒)

デビュー作『ムジカ・マキーナ』と第2作『カント・アンジェリコ』はともに、「音楽をテーマとするスチームパンクSF」というユニークな作品でした。本書は先の2作品で鍵となる役割を果たした、ボーヴァル王国という架空の国家を主役に据えた物語。 フラン…

夢も定かに(澤田瞳子)

聖武天皇の時代。まだ藤原4兄弟と長屋王らとの権力闘争も、藤原氏の安宿媛(後の光明子)と県犬飼氏の広刀自の皇后争いにも決着がついていない頃の物語。官女として働くために阿波国から上京してきた若子は、伊勢出身で才能ある笠女や、稲葉出身で美女の春…

ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(小野不由美)

ごく普通の女子高生にすぎない谷山麻衣のバイト先は、なんと心霊現象の調査をする渋谷サイキックリサーチ。そこの所長はまだ17歳の青年に過ぎない渋谷一也であり、あとは謎めいた助手のリンさんがいるだけなのですが、これまで学校に憑りついた悪霊や呪わ…

ウルフ・ホール 下(ヒラリー・マンテル)

ヘンリー8世の側近として英国宗教改革の法律的な礎を築いたトマス・クロムウェルの活躍は、下巻に入って加速していきます。クロムウェルが中心になって成立させた宗教改革法案(上告禁止法と国王至上法)では、イングランドが教皇庁から独立した帝国である…

ウルフ・ホール 上(ヒラリー・マンテル)

英国国教会を生み出し、次々と6人の妻を娶ったヘンリー8世の時代は、小説や映画の題材に取り上げられることが多いのです。近年では『ブーリン家の姉妹(フィリッパ・グレゴリー)』がヒットしています。 本書の主人公は、ヘンリー8世に側近として仕えて英…

かきあげ家族(中島たい子)

B級コメディ映画ばかり撮り続けてきた老映画監督の中井戸八郎は、最近では仕事のオファーにも見放された状態。元女優の妻がチョイ役で現役復帰を試みているのはともかく、長男は家族に無断で仕事を辞め、次男はひきこもったままで、性転換して女性になった…

仏像破壊の日本史(古川順弘)

まずは冒頭に収められた数枚の写真が衝撃的です。阿修羅像や無著・世親像などの国宝級の仏像群が留置場に転用されて荒れ果てた興福寺中金堂の床に乱雑に配置された写真。首を落とされた仏像が積み重ねられた興福寺東金堂の写真。明治維新という政治的・社会…

アウグストゥス(ジョン・ウィリアムズ)

1972年に出版された本書は、生涯に4冊の小説しか創作しなかった著者の最後の小説であり、翌年に全米図書賞を受賞しています。しかし当時の売れ行きは鈍かったようで、邦訳されたのはなんと2020年になってから。第3作の『ストーナー』が再評価され…

江戸の夢びらき(松井今朝子)

1600年頃の慶長時代に出雲阿国が始めたとされる「かぶき踊」が、江戸初期の「遊女歌舞伎」や「若衆歌舞伎」を経て、演劇を中心とする現代の姿に近いものにまで発展したのは、元禄時代を中心とする17世紀後半のこと。歌舞伎興行を許された江戸四座もこ…

陽暉楼(宮尾登美子)

自らの幼少期をモデルにしたデビュー作『櫂』に続く第2作は、やはり生い立ちと関係が深かった実在の土佐の遊郭の芸妓を主人公とする作品でした。 ストーリーはシンプルです。12歳の時に親に売られて芸の世界に身を置くことになった桃若こと房子が、土佐で…

偉大なる時のモザイク(カルミネ・アバーテ)

15世紀にオスマントルコの支配を逃れてイタリアに移住したアルバニア人が創った村が、イタリアの南方には点在しているとのこと。これらの土地では現在でも、古アルバニア語に近いアルバレシュという言語が話され、ギリシャ正教の影響を受けた独自の文化や…

カント・アンジェリコ(高野史緒)

デビュー作『ムジカ・マキーナ』で「音楽スチームパンク」という新しい地平を切り開いた著者の第2作は、やはり音楽をテーマとする歴史改変SFでした。 ルイ14世の治世も末期を迎えた1710年代のパリ。極彩色の電飾で光り輝くルーブル宮。真空管と電話…

流人道中記(浅田次郎)

7年前の『一路』と同様、19歳の新米武士が初任務として旅路に臨むロードストーリー。『一路』の小野寺一路は真冬の中山道を江戸に向かう参勤道中を仕切るはめに陥りましたが、本書の新米与力・石川乙次郎は夏の奥州街道を、終点の津軽・三厩まで罪人を押…

密林の夢(アン・パチェット)

ペルーの日本大使館人質事件を題材にとって、死にゆく少年ゲリラたちに寄り添った『ベルカント』の著者の第6長編とのことですが、日本での翻訳はまだ2作。もっと紹介して欲しい作家のひとりです。 本書はアマゾンの奥地でひとりの女性が再生する物語。アメ…

レンブラントの身震い(マーカス・デュ・ソートイ)

イギリス王立協会フェローとして啓蒙活動に熱心な数学者である著者が、素数論(『素数の音楽』)、群論(『シンメトリーの地図帳』)、知の最前線(『知の果てへの旅』)に次いでテーマにあげたのは、AI進化の最前線でした。深層学習によってボトムアップ…

うどんキツネつきの(高山羽根子)

本書のタイトル作品が2009年に第1回創元SF短編賞を受賞したことも、2020年には『首里の馬』で芥川賞を受賞した作家ということも知ってはいましたが、このタイトルに引いてしまっていました。1月にEテレで放送された「第2回世界SF作家会議」で…

マルドゥック・ストーリーズ 公式二次創作集(冲方丁/編)

一般公募企画の「冲方塾」の小説部門のうち、「マルドゥック・シリーズ」を題材にした作品を集めた公式二次創作集。冲方氏と作家の吉上亮氏を除けばアマチュアの方々の短編ばかりなのですが、さすがに「公式」だけあって、なかなかの力作ぞろいです。 「expl…

あきない世傳 金と銀8 瀑布篇(高田郁)

武家の家紋のみに用いられてきた小紋染を町人向けのものとしたいという幸の願いは、江戸っ子たちの支持を得ることができたようです。江戸の五鈴屋は順調に立ち上がりましたが、こういうアイデアはすぐにまねされてしまうもの。でも先行者利益を得るために高…

黒魚都市(サム・J・ミラー)

海面上昇が進んだ近未来。陸地の水没や内戦によって多くの国家が崩壊し、その前から分断国家であったアメリカ合衆国ですら既に存在していない世界では、大量の難民が発生。北極圏の深海熱水噴出孔の上に立てられた巨大建築物クアナークでは、世界各地で起こ…

ムジカ・マキーナ(高野史緒)

ファンタジーノヴェル大賞の受賞を逃しながらハードカバーで出版されたという、無名作家のデビュー作としては異例の扱いをされた作品です。「音楽SF」というジャンルは『歌の翼に(トマス・M・ディッシュ)』などの先行作品はあるものの、19世紀末とい…

櫂(宮尾登美子)

林真理子さんによる『 綴る女 評伝・宮尾登美子』を読み、国民的作家とも称された著者の自伝的な4部作を読んでいないことに気付き、まずは実質的なデビュー作を手に取ってみました。本書は著者の養母・喜世をモデルとする女性・喜和の半生記です。 土佐で芸…

盤上の向日葵(柚月裕子)

東京大学卒業後に立ち上げたITベンチャー企業の株式を高額で売却し、異例のルートで将棋のプロ棋士となった天才児・上条圭介は、過去に凶悪な犯罪を犯していたのでしょうか。埼玉県の山中で発見された白骨死体が胸に抱いていた初代菊水月作の名駒は、上条…

新宿鮫Ⅺ・暗約領域(大沢在昌)

8年ぶりのシリーズ最新作は、前巻『絆回廊』のすぐ後の物語なのですが、2012年頃の状況を踏まえるのか、それともこの間の国際情勢や日本の変化を取り込んで書くのかが気になる点でした。新宿や池袋の街の変化にはうといので判断つきかねますが、民泊新…