りぼんの読書ノート

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陽暉楼(宮尾登美子)

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自らの幼少期をモデルにしたデビュー作『櫂』に続く第2作は、やはり生い立ちと関係が深かった実在の土佐の遊郭の芸妓を主人公とする作品でした。

 

ストーリーはシンプルです。12歳の時に親に売られて芸の世界に身を置くことになった桃若こと房子が、土佐で最も格式の高い遊郭でナンバーワンの芸妓に成長するものの、男を見る眼がなかったために不幸に墜ちていく物語。身体ではなく芸を売るとの心意気が逆に仇となり、男女の世界のことを深く知らなかった房子は、若くハンサムな銀行頭取の息子に心奪われてしまったのです。その青年の子を身籠り、馴染み客の老人が事情を知ったうえで落籍しようとする情けを断り、薄情な青年への想いを空しく貫き通した末に不治の病に侵されてしまうエンディングは悲しすぎます。

 

いわば花柳界の薄幸な女の物語にすぎないのですが、本書は魅力的です。昭和初期の遊郭の雰囲気やしきたりを余すことなく伝えてくれる詳細な描写に加えて、登場する女性たちが皆、強くて個性的なのです。芸の修業にも恋愛にも一途な房子のみならず、強欲な子方屋のおかみ、ライバルながら親友の胡遊、意地悪な転び芸者の茶良介、親身になってくれる三味線方の鶴之助など、誰もが生き生きと描かれています。とりわけ病に伏した房子と対照的に、ナンバーワンへの道を歩み始める妹分のとんぼは、まるで『イヴの総て』のマリリン・モンローのよう。本書が映画化された際の主役は池上季実子ですが、夏目雅子三田佳子、十朱幸代、名取裕子など、当時を代表する女優たちが競って宮尾作品に出演したがっていたのも当然でしょう。

 

かなり前に読んだ『蔵』や『序の舞』を別にすれば、まだ2作しか読み始めていませんが、宮尾作品の魅力に嵌まってしまいました。次は、著者の父親をモデルにした女衒の岩伍が再登場する第3作『寒椿』を読む予定です。

 

2021/4