りぼんの読書ノート

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カント・アンジェリコ(高野史緒)

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デビュー作『ムジカ・マキーナ』で「音楽スチームパンク」という新しい地平を切り開いた著者の第2作は、やはり音楽をテーマとする歴史改変SFでした。

 

ルイ14世の治世も末期を迎えた1710年代のパリ。極彩色の電飾で光り輝くルーブル宮。真空管と電話線によって欧州に張り巡らされたネットワーク。そこに蠢くのは、バチカンから逃亡して天使の歌声を響かせる去勢歌手。彼を付け狙う遊び人の教皇使節。国を失った盲目の王女。身分を隠して旅をする英国貴族のスパイ。電気屋枢機卿ハッカー崩れのテロリストたち・・。彼らが狙うのは、ネットワークシステムの維持なのか、破壊なのか、独占なのか。それとも全ては、去勢歌手として生きるしかない寄る辺ない孤児たちの刹那的な衝動がなせる業なのか。

 

超絶的なカストラートの歌声が、ハッキングを可能とし、さらには聞き手の快楽神経を麻痺させてしまうという設定がいいですね。ただし物語と登場人物の相関が、混乱一歩手前というまで複雑になっているように思えました。主要な登場人物を歌手ミケーレと、教皇使節オルランドと、亡国の王女ウラニアに絞って、老英国スパイのレスリー卿に物語を語らせるくらいにすれば、もっと整理がついたように思えるのですがいかがでしょう。しかし混乱の時代のパンクな雰囲気を表すために、あえて本書の著わし方を選択したのかもしれません。

 

2021/4