りぼんの読書ノート

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トニオ、天使の歌声(アン・ライス)

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カストラート歌手・トニオを主人公として、18世紀イタリアを舞台に繰り広げられるロマン小説です。ヴァンパイア・シリーズ魔女の刻シリーズで有名な著者による作品ですが、本書は異界の登場人物が活躍するゴチック・ロマンではありませんので、念のため。

ヴェネツィア共和国の貴族の息子トニオには、出生の秘密がありました。年老いた父の死後、放逐されていた兄カルロとの対決の際に明かされた秘密に打ちのめされたトニオは、過酷な運命に放り込まれます。それは、強引に去勢されてナポリの音楽院に放逐されるという恐るべき仕打ちでした。ほかに生きる道はなく、やがて天上の声を持つ歌手として名声を得るトニオでしたが、彼の中にある暗い復讐の情念が消えることはなかったのです。

かなり耽美的です。まるで少女のような同期のドメニコや、イケメン師匠のグイド氏や、パトロン枢機卿や、美人女性画家クリスティナらと繰り広げるラブ・アフェアの描写も、かなり濃密です。もちろん、本書のコアな部分はカストラート歌手となるための修行と栄光に捧げられているのですが。

現代には存在しないカストラート歌手の歌声など想像しようもありませんが、三大テノール級の迫力を持ったソプラノ歌手ということなのでしょうか。当時に実在していたカッファレッリやファルネッリという、偉大なカストラート歌手をモデルとしたような人物も登場しています。

ついでながら、ヴェネツィアピエタ付属音楽院出身の孤児であったトニオの母親には、マリアンナという名前を与えられています。ローマの護民官がいつも「グラックス」の名を持つのと同じくらいに当然のネーミングですね。

2015/4