りぼんの読書ノート

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スミソン氏の遺骨(リチャード・T・コンロイ)

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1927年にテネシーで生まれた著者は、原子力研究所、海外領事館勤務の外交局職員、国務省職員などを経験した後で、スンソニアン博物館に長く務めた経歴を持っています。本書の主人公であるヘンリー・スラッグズは、42歳で国務省からスミソニアンに出向中の役人であり、著者の経歴とそっくり重なっているわけです。

 

彼が勤務する渉外業務室は常に存在意義を疑われていて、実際にやっている仕事はどうでもいい客人の案内と、どうでもいい内部調整ばかり。そんな彼が客人に、人類学研究室の頭蓋骨コレクション登録作業を見せていたところ、思いがけない結果が判明。その頭蓋骨は、博物館創設者で150年前に亡くなっていたジェイムズ・スミソン氏だというのです。そしては彼が葬られていた納骨堂の石棺の中から、フリーズドライされた真新しい遺体が発見されてしまいます。

 

それだけではありません。動物の剥製処理設備、保存されたミイラ、ポリマーに覆われた人体模型という、博物館ならではのユニークな処理をされた死体が次々と発見されていくのです。犠牲者が皆、国際出版物交流事業の見直しを命じられた委員会メンバーであることに気付いたヘンリーは、魅力ある若い女性で法律顧問補のフィービ・ケイシーと一緒に犯人捜しを始めるのですが・・。

 

スミソニアンの文化交流事業が旧東側諸国との窓口であったことを犯行動機と関連付け、博物館ならではの死体処理方法を用いて、ミステリとしてきちんと成立している作品です。でも主人公が同輩たちと苦情を言い合う「博物館あるある」や「出向官僚あるある」のほうに魅力を感じる人の方が多いかもしれません。首都ワイントンDCに多くの博物館や学術機関を要するスミソニアンの基礎を築いた人物が、イギリス人であったとは知りませんでした。

 

2021/4