りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/1 Best 3

巨匠ル・カレさんの2作品、現役感バリバリでブリグジットを扱った『スパイはいまも謀略の地に』と、創作の秘密を垣間見せてくれた自伝的小説『地下道の鳩』は、どちらも素晴らしい作品でした。今月は良い作品にたくさん出会えたのですが、どれもめちゃくち…

世界の果てのこどもたち(中脇初枝)

戦時中の満州国の最奥地、この先にはもう部落はないとう長白山脈の山裾に作られた開拓村で交差した、生まれも育ちも異なる3人の少女たちの人生が、丁寧に語られていきます。 高知の貧しい村から家族とともに開拓村にやってきた珠子は、敗戦後の引き揚げの際…

地下道の鳩(ジョン・ル・カレ)

「スパイ小説の巨匠」というより、もはや英国文学界の至宝ともいうべき著者が、昨年12月に亡くなりました。本書は著者の回想録ですが、カバー裏に「この回想録で明かされる真実」として、下記の7項目が箇条書きでしめされています。中でも「小説の登場人…

砂糖の空から落ちてきた少女(ショーニン・マグワイア)

ウサギ穴に落ちたり、衣装ダンスの奥に潜り込んだり、竜巻にさらわれたりして、異世界での冒険を体験して戻ってきた子供たちが、現実世界に適応することは困難なのでしょう。皆が皆「おうちがいちばん」という訳ではないのです。そんな子供たちに救いの手を…

トランクの中に行った双子(ショーニン・マグワイア)

ウサギ穴に落ちたり、衣装ダンスの奥に潜り込んだり、竜巻にさらわれたりして、異世界での冒険を体験して戻ってきた子供たちの誰もが、現実世界に適応できるわけではありません。異世界に戻ることを希求し続けながら年を経てしまった老女エリノアが経営する…

死にがいを求めて生きているの(朝井リョウ)

伊坂幸太郎さんが発案し、8組9人の作家が集結して「対立」を共通のテーマとする作品を競作したという「螺旋プロジェクト」の第1弾が本書です。 舞台は平成。植物状態となって入院中の青年・南水智也と、毎日のように彼を見舞う堀北雄介の間には、どのよう…

大江戸火龍改(夢枕獏)

江戸時代末期、火附盗賊改の裏組織として存在する火龍改の相談役を務める謎の人物・遊斎を主人公とする物語。しかし捕物帖的な要素は少なく、結局のところ『陰陽師シリーズ』に似通った作品になってしまったようです。 人形町の鯰長屋に住む年齢不詳の遊斎は…

サブリナとコリーナ(カリ・ファハルド=アンスタイン)

コロラド出身の若い著者による短編集ですが、彼女の出自を一言で表すのは難しいのです。チカーノと呼ばれるラテンアメリカ系でありながら、ユダヤ、アングロ、フィリピンの血も交じっているという一族の出身。そもそも彼女たちは移民ではなく、アメリカとの…

ブッチャーズ・クロッシング(ジョン・ウィリアムズ)

「ひとりの男が教師になるだけの物語なのに魅力にあふれた作品」である『ストーナー』と同じ著者の作品とは思えないほど、荒々しい小説です。 舞台は19世紀末のアメリカ西部。まだフロンティアは消滅しておらず、バッファローが群れをなす未開の荒野も存在…

猫君(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」の著者が、新たな可愛らしいキャラクターを生み出してくれました。それは猫又。20年生きたネコは尻尾の先が二叉に分れた妖怪となり、人語を解し、人に化け、飼い主に祟るようになると言われていますが、本書の猫又たちは飼い主への感…

オオカミは大神(青柳健二)

神社を巡っていると、中国ルーツの獅子型の狛犬でも、稲荷神の使いである神社の狐でもない、まるで和犬のような像が鳥居や本殿の両側を守護しているのを目にすることがあります。これはオオカミ信仰に基づく狼像のようです。本書は、写真家である著者が実際…

インビジブル(坂上泉)

戦前の国家警察がGHQによって解体された後に導入されたアメリカ式の自治体警察は、当初の目的であった「民主警察」を体現し得るものだったのでしょうか。1954年に再び国家警察に再編される前夜の大阪市警視庁を舞台にして、若手の中卒叩き上げで所轄…

チョコリエッタ(大島真寿美)

高校2年生の知世子は、愛犬のジュリエッタの死によってからっぽになってしまいました。ジュリアッタは、彼女が幼い頃に事故死した母が名付けて、知世子に遺してくれた犬だったのです。だから愛犬の死は、2度めの母の死であり、彼女は深い喪失感に沈んでし…

シーソーモンスター(伊坂幸太郎)

本書を読むまで知らなかったのですが、2019年に中央公論新社による奇妙なプロジェクトが行われたそうです。それは9人のベストセラー作家が共通のルールのもとに古代から未来までの歴史物語を競作するというもの。本書には、プロジェクト発起人でもある…

日本マンガ全史(澤村修治)

サブタイトルに「鳥獣戯画から鬼滅の刃まで」とあるように、日本マンガの全体像を歴史的に記述した一冊です。もちろん全てを語りつくすことなど不可能であり、ここで紹介された多くの作品を読むことなしに全てを理解することなどできないのですが、少なくと…

ウィンターズ・テイル 下(マーク・ヘルプリン)

天翔ける白馬とともに空から落下したピーター・レイクは、一命は取りとめたものの記憶を失ってしまいました。しかも彼が戻ってくるまでに75年の時が過ぎ去っていたのです。魔法のように機械を操るエンジニアの腕前は健在であり、ピーターはアイザック・ペ…

ウィンターズ・テイル 上(マーク・ヘルプリン)

3度目の千年紀を迎えようとする時に、ニューヨークという大都会が完全なる正義の都市という高みへと駆け上る物語・・とでも言うのでしょうか。これだけでは何のことかわかりませんよね。実は上下巻1000ページを読了してもよくわからない奇書なのですが…

その日の後刻に(グレイス・ペイリー)

1922年にニューヨークに生まれ、84年の生涯でたった3冊の短編集を残しただけの著者に惹かれる人は数多いのですが、村上春樹さんもそのひとり。30年近くの歳月をかけて全作品を翻訳したのですから。本書は、『最後の瞬間のすごく大きな変化』と『人…

アカネヒメ物語(村山早紀)

2001年から2005年にかけて書き継がれた児童書「アカネヒメ・シリーズ」に書下ろしの1編を加えた連作短編集。著者が2017年と2018年の本屋大賞にノミネートされたことで出版されたようです。 アカネヒメとは、小さな町の小さな公園にある古い…

謎が解けたら、ごきげんよう(彩藤アザミ)

「華やかな大正時代を経て、世界恐慌と情勢不安の煽りを受け、日本中が貧しくも享楽的な明るさを持っていた」昭和6年。小説家の母を持ち女学校に通う14歳の茜を中心に結成された「昭和少女探偵團」のシリーズ第2弾。 メンバーは、川島芳子の異母妹で天才…

ラスト・ストーリーズ(ウィリアム・トレヴァー)

著者の死後2018年に出版された本書は、アイルランドが生んだ短編小説の名手の、文字通りの「最後の小説」になってしまいました。精緻な人間観察と細やかな心理描写に加えて、複雑な人生を一瞬で描き出しながら余韻を残す魅力は、最後まで冴え渡っていま…

スパイはいまも謀略の地に(ジョン・ル・カレ)

1931年生まれのスパイ小説の巨匠の作品が、2020年12月に亡くなりました。本書は彼の遺作になってしまうのかもしれませんが、最後まで全く老いていません。民主主義を破壊するかのようなアメリカ大統領との関係を深める一方で、EUからの離脱を決…

京都伏見のあやかし甘味帖 5(柏てん)

仕事も恋も失って京都で人生休憩中だった小薄れんげの前で、次々と異変が起こったことには理由があったのです。神使という子狐のクロと出会ったのも、神格化された怖い母狐の白菊や兄狐の黒烏に脅されたのも、陰陽師や義経や弁慶の霊と関わってしまったのも…

逆さの十字架(マルコス・アギニス)

独裁政権と深く結びついた宗教の欺瞞を描き続けている著者の、『マラーノの武勲』と『天啓を受けた者ども』に続く3冊目の翻訳書ですが、実はこれがデビュー作。スペインで文学賞を受賞するまではアルゼンチンで発禁処分を受けていた作品です。 1960年代…

ローズ・アンダーファイア(エリザベス・ウェイン)

前著『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編であることは、表紙からも明らかです。もちろん本書だけでも独立した物語になっています。片や飛行士、片やスパイとしてドイツ占領下のフランスに潜入した親友どうしのマディとクイニーの物語である前著は、2つの…

ちいさな国で(ガエル・ファイユ)

1982年にブルンジで、フランス人の父とツチ族のルワンダ難民の母の間に生まれ、ブルンジ内戦中の1995年にフランスに移住した著者は、フランスで人気ラッパーになりました。と同時に「ブルンジでは自分が白人だと、フランスでは自分が黒人だと感じさ…