りぼんの読書ノート

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世界の果てのこどもたち(中脇初枝)

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戦時中の満州国の最奥地、この先にはもう部落はないとう長白山脈の山裾に作られた開拓村で交差した、生まれも育ちも異なる3人の少女たちの人生が、丁寧に語られていきます。

 

高知の貧しい村から家族とともに開拓村にやってきた珠子は、敗戦後の引き揚げの際に家族とはぐれてしまい、現地の家族に引き取られて中国人として育つことになります。朝鮮人の美子(ミジャ)は、満州国の農業指導員だった父親が対日協力者とされたことで、親戚を頼って来日し、在日朝鮮人として育ちます。横浜で裕福な貿易商の娘として生まれた茉莉は、父親の出張に同行して一時的に満州を訪れました。後に彼女は横浜空襲で身寄りを失い、戦災孤児として施設で育てられます。

 

しかし3人は生涯、満州で遠出をした際に大雨で家に戻れなくなり、おむすびを分け合って過ごした不安な一夜を忘れることはありませんでした。幼い日の友情の思い出が、彼女たちの心の支えになり続けたのです。

 

「世界の果て」とは、彼女たちが出会った満州国の奥地の村のことだけではないのでしょう。それぞれ中国残留孤児、在日朝鮮人戦災孤児として厳しい人生を歩んだ彼女たちにとって、幼い頃の楽しかった思い出は、それこそ世界の果ての出来事にしか思えなかったのでしょうから。そして現在なお増え続けている難民や孤児たちにとっても、本来懐かしいはずの故郷は「世界の果て」になってしまうのかもしれません。

 

2021/1